最新記事

アメリカ経済

かい離する政治と経済、トランプはますますクリントンに似てきた

2017年8月7日(月)08時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

大統領支持率からも、クリントン大統領とトランプ大統領の類似性がうかがえる。最近4人の大統領のうち、就任一年目の夏の時点で支持率が50%を下回っていたのは、クリントン大統領とトランプ大統領だけである。トランプ大統領の支持率は40%を割り込んでいるが、クリントン大統領の支持率も、一時は40%を下回っていた(図表2)。

yasui20170804165602.jpg

政治が不要なときもある

政治と経済のかい離には、それなりの理由がある。あくまでも米国経済の原動力は、民間部門である。例えば、GDP(国内経済総生産)の7割は、個人消費が占めている。政治に助けが求められるのは危機的な状況や景気が悪い時であり、景気が順調に拡大している時であれば、それほど政治の出番は求められない。

むしろ平常時には、経済に対する政治の無用な介入が、景気の動きをおかしくするリスクがある。たとえば、経済が順調に回復しているにもかかわらず、減税などによって景気を刺激してしまうと、かえって景気が過熱してしまい、景気後退に陥る時期を早めてしまいかねない。景気の過熱がインフレ率の上昇につながれば、FRBは利上げを急がなければならなくなる。そうなれば、景気の勢いが鈍りやすくなるからだ。

米国では、政治的な混乱を背景に、トランプ政権の目玉公約である減税の実現が遅れている。期待外れの展開ではあるが、景気が堅調に拡大している現状を考えれば、必ずしも減税が必要とされるタイミングではないのも事実である。むしろ、減税が遅れたことによって、利上げを急ぐ理由が少なくなり、景気の寿命を長引かせている可能性が指摘できるだろう。

中間選挙敗北と弾劾はトランプもあり得る

政治と経済のかい離は、このまま続くのだろうか。

確かにクリントン政権下では、経済と政治のかい離が定着していった。

就任一年目を過ぎても、政治的な混乱は続いた。1994年の議会中間選挙で、クリントン大統領の民主党は大敗し、40年ぶりに上下両院で共和党が多数党となった。1995年から96年にかけては、議会との対立で債務上限の引き上げや予算の編成が難航し、政府機関が二度にわたって閉鎖に追い込まれた。1996年の大統領選挙では再選されたクリントン大統領だが、その後もスキャンダルの影につきまとわれ、ついに1998年には下院に弾劾されている。中間選挙での敗北、債務上限・予算編成での混乱、さらにはスキャンダルからの弾劾と、いずれもトランプ政権でも問題になりかねない事象ばかりである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中