最新記事

アメリカ経済

かい離する政治と経済、トランプはますますクリントンに似てきた

2017年8月7日(月)08時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

対照的に、経済は順調に推移した。2期目に盛り上がったITブームにも助けられ、在任中の実質GDP成長率は、年平均で約4%を記録している。好調な経済による税収増に助けられ、問題だった財政赤字も急速に減少した。就任時は3,200ドル台で始まったダウ工業株30種平均株価は、1999年には1万ドルの大台を突破している。

年老いた景気

トランプ政権においても、このまま政治と経済のかい離が定着する可能性はある。しかし、トランプ政権とクリトン政権のあいだには、二つの重要な違いがあることは見逃せない。

第一に、景気の成熟度合いが違う。いずれの政権においても、初期の好調な株価は、前政権から引き継いだ景気拡大に助けられた側面が大きい。ただし、クリントン政権の場合は、景気回復の始まりが就任2年前の1991年からだったのに対し、今の景気拡大は2009年から始まっている。まだ景気拡大が若かったクリトン政権の時代と違い、景気の持続力が注目される局面に差しかかってきた。FRBが量的緩和政策で買い入れてきた保有資産の縮小が検討されるなど、長らく続いてきた金融緩和局面も、いよいよ転換点を迎えつつある。

景気の力が弱くなれば、政治の混乱に引きずられやすくなる。有権者の不満が高まれば、さらに政治が不安定化する悪循環にも陥りかねない。

クリントン政権「世界を救う委員会」

第二に、トランプ政権の危機対応力は試されていない。いざ危機が発生した時には、政治の力が必要になる。一定の成果を残したクリントン政権に対し、トランプ政権の危機管理能力は未知数である。

クリントン政権の時代でも、肝心な局面では政治が経済を守っていた。国内から海外に目を転じると、クリントン時代の経済が無風だったわけではない。1995年のメキシコ危機、1997年のアジア通貨危機、さらには1998年のロシア危機と、世界経済は大荒れだった。ロシア危機の影響で大手ヘッジファンドが破たんするなど、その悪影響は米国にも及びそうだった。

当時のクリントン政権は、IMF(国際通貨基金)などと連携しながら、何とか危機を乗り切った。1999年2月に米タイム誌は、指揮を執ったルービン財務長官とサマーズ財務副長官、さらにはグリーンスパンFRB議長を、「世界を救う委員会」と評している。後にオバマ政権で財務長官となるガイトナーも、当時は財務次官として危機対応に当たっていた。

一方のトランプ政権では、人事の遅れが著しい。経済運営においても、コーン経済担当補佐官には安定感がみられるものの、財務省は副長官すら決まっていない有様だ。

クリントン政権の終盤には、政権と敵対するはずの共和党系のシンクタンクですら、「いずれダウは3万3,000ドルに達する」と威勢の良い分析を発表していた。今、その筆者の一人であるハセット氏は、トランプ政権で経済諮問員会の委員長を務めている。これも奇妙な符号だが、クリントン政権とトランプ政権の違いを考えると、同じように威勢の良い分析を発表するには、少々勇気が必要かもしれない。

yasui-profile.jpg安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中