最新記事

経済

中国マネーが招くベネズエラの破綻

2017年7月8日(土)18時30分
クリストファー・バルディング(北京大学HSBCビジネススクール准教授)

世界の鼻つまみ者に?

中国当局は一帯一路を語る際、第二次大戦後の欧州復興計画マーシャルプランをよく引き合いに出す。しかし一帯一路は「中国による中国のための計画」だ。低金利や無利子の開発援助と違い、金利は市場の相場に基づき高く設定される。しかも鉄道や港湾の建設事業を受注するのは中国企業で、資材も中国から輸入し、労働者も中国人だ。

そうであっても中国は高い代償を免れ得ない。既に中国当局は南アジアと中央アジアの国々への融資で多額の焦げ付きが出ると予想している。

スリランカがいい例だ。中国は20億ドルの借金棒引きを認めたが、その後にまたインフラ事業で320億ドルを投資した。大型インフラ事業で中国マネーが流入するパキスタンではインフレが起きるのは必至で、そうなれば債務返済はさらに困難になる。

【参考記事】習近平「遠攻」外交で膨張する危険な中国

中国は今後10~15年間で一帯一路事業に5兆ドルを投じると公言している。実行すれば中国にとっても大きな負担になり、比較的小規模のデフォルトでも経済的・政治的に深刻な打撃をもたらす可能性がある。

借り手を苦しめる手前勝手な貸し付けで途上国の経済を破綻させる――中国が世界の鼻つまみ者になりたいなら、これほど有効な処方箋はない。既にベネズエラ、スリランカ、パキスタンの苦境を見て、ほかの国々は中国マネーに飛び付かないか、少なくともリスクを考慮する姿勢を見せている。

事業の採算性や借り手の返済能力を見極めずに多額の貸し付けを続けては、借り手と貸し手が相互不信に陥るばかりか、借り手が次々に破産する事態もあり得る。中国が賢い貸し手にならない限り、金融外交でいくら札ビラを切ったところで誰にも相手にされなくなるだろう。

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年7月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー

ワールド

北朝鮮の金総書記、巡航ミサイル発射訓練を監督=KC

ビジネス

マクロスコープ:高市氏が予算案で講じた「会計操作」

ワールド

中国、改正対外貿易法承認 貿易戦争への対抗能力強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中