最新記事

経済

中国マネーが招くベネズエラの破綻

2017年7月8日(土)18時30分
クリストファー・バルディング(北京大学HSBCビジネススクール准教授)

中国だけが得する契約

ベネズエラ経済が完全に破綻し、マドゥロ政権が崩壊すれば、中国は外交・経済両面で大打撃を受けかねない。その証拠に国家経済を破滅に導いたマドゥロ政権がなかなか倒れないのは中国が支えているからだと、ベネズエラの野党はみている。

マドゥロ失脚後の新政権はチャベス=マドゥロ時代に結ばれたローン契約を無効とし、アメリカに支援を求めるだろう。そうなれば中国のメンツは丸つぶれだ。中国は過去に貧困国のデフォルト(債務不履行)を熱っぽく擁護したことがある。当時の債権国は欧米諸国だったから、借金を踏み倒されても中国に実害は及ばなかった。

ベネズエラがデフォルトに陥れば、中国ばかりかほかの国々も影響を被るだろう。中国は「一帯一路」の一環として、多くの国々にベネズエラ方式の融資を行う計画だ。資金と技術的なノウハウを提供してインフラ整備を支援すれば、資源や物流拠点を確保できる上、友好国を増やして国際社会で影響力を拡大できる。中国にとってはまさに一石二鳥の援助計画だ。

【参考記事】日中戦争から一帯一路まで「パンダ外交」の呪縛

今は中国が壮大な構想を実現しやすい環境がある。アメリカはトランプ政権になってから世界のリーダーの役割を放棄した。オバマ前政権のアジア重視政策が掛け声だけで終わったことも、中国のアジア政策には好都合だ。

アジアの多くの国々は遠慮がちに、あるいは声高にアメリカの関与を求めている。中国の支配におとなしく従いたくないからだ。だがリスクを承知で中国に頼るか、どこにも頼れないかという二択なら多くの国が前者を選ぶだろう。

ベネズエラ経済が破綻の淵に追い込まれたのは、愚かな経済政策を進める独裁政権に、無制限にカネを貸す太っ腹なスポンサーがいたからだ。この有害な組み合わせは、一帯一路で多額の融資を受ける多くの国々に共通している。経済の低迷に頭を抱える独裁政権は長期的には採算が取れなくとも、一時的な景気浮揚策として中国が出資する大型の開発事業に飛び付く。

早くもスリランカとパキスタンは債務危機に追い込まれつつある。スリランカは中国の資金で南部にハンバントタ港を建設したものの、重い金利負担にあえぎ港の運営権を99年間中国に貸し出すことにした。中国はパキスタンの通貨危機を防ぐためこの1年に12億ドルの緊急融資を行い、さらにインフラ整備のため今後数年にわたって最低でも520億ドルを投資する計画だ。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

政策修正の場合、賃金上昇率や総需要など総合的に判断

ワールド

情報BOX:アゼルが掌握したカラバフ、アルメニア系

ビジネス

ECB、過度な利上げへの警戒必要=仏中銀総裁

ワールド

中国、EUのリスク認識軽減へ「多くのこと」できる=

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:グローバルサウス入門

特集:グローバルサウス入門

2023年9月19日/2023年9月26日号(9/12発売)

経済成長と人口増を背景に力を増す新勢力の正体を国際政治学者イアン・ブレマーが読む

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウィリアム皇太子、弟夫婦が受けた扱いとの違いは歴然

  • 2

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の「記憶に残る」7着のドレス

  • 3

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 4

    「クレイジーな誇張」「全然ちがう」...ヘンリーとメ…

  • 5

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 6

    広範囲の敵を一瞬で...映像が捉えたウクライナ軍「ク…

  • 7

    「映画化すべき!」 たった1人のロシア兵が、ウクラ…

  • 8

    J.クルーのサイトをダウンさせた...「メーガン妃ファ…

  • 9

    米美人タレント、整形と豊胸でおきた「過酷な経験」…

  • 10

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 1

    突風でキャサリン妃のスカートが...あわや大惨事を防いだのは「頼れる叔母」ソフィー妃

  • 2

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務所の「失敗の本質」

  • 3

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 4

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に…

  • 5

    「死を待つのみ」「一体なぜ?」 上顎が完全に失われ…

  • 6

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 7

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 8

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 9

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウ…

  • 10

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の…

  • 1

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」が、家族に送っていた「最後」のメールと写真

  • 2

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 3

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部隊がロシア軍の塹壕に突入

  • 4

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 5

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 6

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 7

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 8

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    ロシア戦闘機との銃撃戦の末、黒海の戦略的な一部を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中