最新記事

憲法改正

「自衛隊は軍隊」は国際社会の常識

2017年5月12日(金)18時30分
辰巳由紀(米スティムソン・センター主任研究員)

安倍首相は自衛隊を合憲とする憲法改正を提案している(写真は3月の自民党大会に出席した安倍首相) Toru Hanai-REUTERS

<安倍首相の改憲メッセージにむやみに反発するより、国民が自覚を持って自衛隊の存在意義を判断すべきだ>

安倍晋三首相がついに、憲法改正について率直な発言をした。4月下旬に行われた読売新聞のインタビューでは、憲法改正の内容と時期を詳細に語った。また日本会議の主催する集会には、憲法改正の決意を語るビデオメッセージを寄せた。

このことが大きく報道されたのは、安倍が憲法改正に関する自らの見解と目標とする時期を具体的に提示したからだ。

例えば、彼は9条の改正を目指すことを明言した。この条項は、平和を愛する国としての戦後日本のアイデンティティーの象徴であり、神聖にして侵すべからざるものとされてきた。

安倍は国際紛争の手段としての戦争放棄を定める1項と、戦力の保有を否定する2項を維持することを明らかにしつつ、自衛隊の憲法上の地位を明確に正当化する第3項を加えたいと語った。スケジュールについては、2020年の東京オリンピック開催までに改正憲法を施行したいと述べた。

【参考記事】自衛隊の南スーダン撤退で見えた「積極的平和主義」の限界

この発言に対する反響は大きかった。例えば朝日新聞は、安倍の9条改正の意向を批判する社説を掲載し、現在の憲法が過去70年にわたって日本人の大多数の支持を得てきたことを否定してはならないと主張。毎日新聞は、日本が国際平和に貢献するためには9条の改正が必要だという結論に性急に飛び付くべきではないと警告した。

ニューヨーク・タイムズも、日本国内で上がった反対の声を報じ、ソーシャルメディアでの批判や、5万5000人の抗議集会などを紹介した。

憲法9条の改正という提案がこれほど強い批判を巻き起こしたのはなぜか。主な理由は2つあると思われる。1つは、現在の憲法を少しでも改正することに対する強い嫌悪感だ。日本人は憲法、特に9条を、平和への貢献を志す国としての戦後日本の自己イメージの究極の象徴と見なしてきた。それゆえ、どんな形であれ9条の改正案は極端な嫌悪感を引き起こす。

さらに安倍発言を批判する人々は、彼の真意に疑いを抱いている。実際には、安倍の9条改正案は非常に抑制された良識的なものだ。現在の1項、2項は維持し、日本の安全を守るための軍事組織として自衛隊を合憲と認める第3項を付け加えることを提案しているだけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中