最新記事

憲法改正

「自衛隊は軍隊」は国際社会の常識

2017年5月12日(金)18時30分
辰巳由紀(米スティムソン・センター主任研究員)

だが北朝鮮からの大きな脅威に直面し、中国との緊張が続くこの時期に声明を発表したタイミング、そして日本会議という現代史に関する歴史修正主義的な主張で批判されることの多い保守的なグループにメッセージを送ったことから、安倍の意図を勘繰る人もいる。

彼らが懸念しているのは、最初は国民に受け入れられやすい改正案を提示し、憲法改正の実績を作った上で、より野心的な改憲を後継政権に託すというシナリオだ。

【参考記事】日本の国是「専守防衛」は冷徹な軍略でもある

最終判断は国民投票に

そのような批判には、憲法9条の規定と、日本の現状、特に自衛隊にまつわる現実との間のギャップが戦後日本において拡大し続けているという認識が欠けている。今日の自衛隊は外観も行動も軍隊そっくりの組織であり、日本以外では軍隊と見なされている。

憲法上、そして法律的、政治的、社会的に制約を受けていながら、自衛隊は設立以来、世界で有数の先進的な軍隊に進化し、今では日本国民からも強い支持を受けている。

第1の任務である国防はいうまでもなく、国内外の災害出動から国連平和維持活動への参加まで、自衛隊がさまざまな形の活動を求められてきたことからすれば、日本としても自衛隊を合憲な存在と認めることぐらいはするべきであろう。

現在の日本国内の議論には、このことに関して日本の国民に決定権があるという論点が欠けているようだ。

多くの人が安倍の「真の」意図に関して不平を言っているかもしれないが、国民の過半数は安倍政権のもたらす政治的安定と、北朝鮮問題やロシアとの平和条約締結交渉、中国との関係など複雑で難しい外交と安全保障の問題に取り組む決意を支持しているようにみえる。

改憲派の議席数が、改正の手続き上重要な衆参両院の3分の2を超えている現状でこの発表を行ったというタイミングを批判する声も多い。

だが、議会の3分の2の議席を与えたのは日本の有権者だ。そして最終的に、憲法改正には国民投票で過半数の賛成が必要となる。言い換えれば、連立与党と改憲派が3分の2以上の議席を占めているという現在の政治環境だけで、安倍の求める憲法9条の改正が実現するわけではない。

つまり安倍の提案した憲法改正の運命は、最終的には日本国民がこの提案にどう向き合い、自分たちの問題として引き受けるかどうか、そして国民投票で責任ある決定を下せるかどうかに懸かっている。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

From thediplomat.com

[2017年5月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ボリビア大統領選、中道派パス氏が首位 左派は敗北へ

ワールド

ケネディ米厚生長官、2028年大統領選への出馬を否

ビジネス

米産業用機械メーカーが苦境に、関税コストの顧客への

ワールド

韓国大統領、北朝鮮との合意の順次実行を閣僚に指示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中