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アングル:米株式取引24時間化、ウォール街では期待と慎重論が交錯

2025年12月17日(水)18時41分

 12月16日、米国株式市場で取引の平日24時間化が間近に迫っているが、ニューヨークの金融街ウォール街は歓迎一色というわけではない。写真はニューヨークの地下鉄で2008年10月撮影(2025年 ロイター/Shannon Stapleton)

Anirban Sen

[ニューヨーク 16日 ロイター] - 米国株式市場で取引の平日24時間化が間近に迫っているが、ニューヨークの金融街ウォール街は歓迎一色というわけではない。

今年になって24時間取引への移行は今年に入って加速している。背景には、世界中の投資家が米国資本市場へのアクセス拡大を近年強く求めていること、第2次トランプ政権となり、これまで米金融市場拡大の阻害要因とされてきた煩雑な規制の撤廃を米証券取引委員会(SEC)が進めたことがある。

証券取引所は、来年後半にもほぼノンストップの株式取引の広範な導入に向けて準備を進める。ナスダックは15日、平日の取引時間を1日当たり23時間に延長する申請書類を規制当局に提出した。

<費用対効果に疑問>

米取引所や決済機関、市場インフラ企業などが技術的な道筋と基盤整備を進める中、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレーなどの金融大手の幹部は取材に、こうした数百億ドル規模の投資を要する動きが巨額の利益をもたらす保証がされていないとしてリスクを指摘した。

パイパー・サンドラーのシニア調査アナリスト、パトリック・モーリー氏は「この動きは収入拡大の機会というよりは、むしろ厄介事だと見なされている」とし、「銀行や証券会社は追加の技術とサポートの体制を構築する必要がある。現時点では、その投資がどれほどで回収できるかの見通しが立っていない」と指摘する。

銀行や証券会社は、24時間取引を可能にする際のコストと効果、リスクを検証している。この数週間、一部企業の幹部は市場を大きく動かすイベントに伴うリスク管理への懸念を表明している。

米証券取引委員会(SEC)が主催した最近のパネルディスカッションで、バンク・オブ・アメリカの証券取引清算機関(FICC)電子取引・市場戦略投資グローバル責任者、ソナリ・タイセン氏は「本格導入前に、こうした事象に対処するための適切なリスク管理が確保されていることを確認する必要がある」と語った。

<米国外の投資家に恩恵>

24時間取引への移行を支持する側は、これによって特に米国外の個人投資家や機関投資家が米国の取引時間外に発生するニュースに迅速に対応できるようになると主張している。だが、市場構造の専門家や大手銀行幹部は、夜間流動性の低下が取引の質に影響を与え、価格設定の精度を低下させる可能性があると警告し、需要の有無にも疑問を呈している。

エバーコアISIの電子取引責任者、ブライアン・サス氏は「システムや終日業務プロセスの全てを変更し、夜間業務のためにあらゆるものを拡大し、そのために労働者を雇用するつもりはない」とし、現時点で機関投資家による夜間取引の需要は見られないと説明した。

ブラックロック幹部は今年の白書で、夜間時間帯は通常の取引時間より流動性が低く、これによるビッド・アスク・スプレッド(買い気配値と売り気配値の価格差)の拡大、ボラティリティー(価格変動)の拡大、取引コストの増加が生じ得ると指摘した。

シティグループの北米市場構造責任者、マイケル・マソーネ氏は「初日から参加を強く求める企業は多くないと認識している。しかし、取引可能な著しい流動性があれば、いずれ参加せざるを得なくなるだろう」とし、シティも24時間取引の準備に着手したことを明らかにした。

<取引所が基盤整備>

ウォール街の主要取引所は、時間外取引を可能にする基盤整備を開始した。ナスダックが15日に発表した動きは、ニューヨーク証券取引所(NYSE)が傘下の電子取引所「NYSE Arca(アーカー)」で平日に22時間の取引を提供すると昨年表明したことに続くものだ。NYSEの申請は今年、米証券取引委員会(SEC)の承認を得た。

2026年終盤の24時間取引導入の成否は、取引時に米国取引所の株式について最も正確な気配値を表示する証券情報処理システムの大規模な更新にかかっている。証券取引の決済機関である米証券保管振替機関(DTCC)は、26年終盤までに株式の24時間決済を導入する計画だ。

DTCCとアーンスト・アンド・ヤング(EY)は最近発表した白書で、28年までに米国株式総取引量のうち1―10%が延長される時間帯に取引されるようになると予測した。

ロビンフッドのスティーブ・クアーク最高ブローカー責任者(CBO)は「数年後には24時間取引が実現し、あらゆる市場参加者が参加するようになると言っても過言ではない」との見解を示した。

シタデル・セキュリティーズの政府・規制政策グローバル責任者、スティーブン・バーガー氏は、同社がこうした取引需要に応えると表明。「通常取引の時間外に投資家の需要があれば、最高の品質と体験を提供するのが私たちの役割だ」と強調した。

一部の企業経営陣は、夜間取引が近い将来実現しなかったとしても、最終的にはウォール街にとって数十億ドル規模のビジネスに成長する可能性があると指摘した。

シティのマソーネ氏は「2026年に本格化するか。それはおそらくない。27年には、それはあり得る。28年までに相当な市場規模になるか。そのように考える」と述べた。

ロイター
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