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歴史スペクタクル『グレートウォール』は、3分の2だけグレート

2017年4月26日(水)13時45分
サム・アダムズ

戦闘場面についていえば、張がこの物語に引き付けられた理由を察するのは難しくないし、1億5000万ドルという製作費の行方も見て取れる。原色の衣装に身を包んだエキストラの列が延々と続き、彼らが長城を走り抜ける光景は、ペンキが川となって押し寄せるかのようだ。

炎を上げる砲弾は煙の柱をつくって空気を切り裂き、3次元で滝状に爆発する。スペクタクルに関しては、張の3部作『HERO』『LOVERS』『王妃の紋章』には及ばないとしても、10年後に再びこの手の作品を見られるのはうれしい。

だからといって耽美主義に逃避して、『グレートウォール』の政治性を無視するつもりはない。しかし、この作品の政治的主張を見極めることはそう簡単ではない。つかみにくく、一貫性に乏しいからだ。

【参考記事】ファッションは芸術たり得るか? 汗と涙のドキュメンタリー『メットガラ』

この作品が白人を起用したのは、中国人の主人公に共感するという難行からアメリカ人の観客を解放するためだ。張はこの映画には4人の中国人ヒーローがいると言うが、リン司令官以外の3人の人物像はウィリアム以上に穴だらけだ。

おまけにウィリアム以外の白人は、頭の古い悪党でしかない。ウィリアムは比類なき弓の名人だが、ただ部隊に同行するだけで、戦略や不屈の精神においては中国人キャラクターに負けている。ウィリアムが持っていた磁気を帯びた岩は怪物を攻撃する決め手となるが、そこに気付くのは彼ではない。

どの程度までが脚本のせいなのか、張がどれだけ脚本に抵抗したのかは分からない。しかしこの映画は、登場人物が怪物と戦うように、自らの矛盾とも激しく闘っている。

[2017年4月25日号掲載]

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