最新記事

BOOKS

DV防止法のせいで、わが子に会えず苦しむ父親もいる

2017年3月20日(月)14時46分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<父親たちの本音をすくい上げるノンフィクション『わが子に会えない』。気になるのは、実際には暴力をふるっていないのに「DV夫」のレッテルを貼られ、子どもに会えなくなる人もいるということだ>

わが子に会えない――離婚後に漂流する父親たち』(西牟田靖著、PHP研究所)は、ある日突然、子どもと会えなくなってしまった父親たちの本音をすくい上げたノンフィクション――とだけ聞いてもピンとこないかもしれないが、冒頭に登場する「ある事件」についての記述を読めば、どういうことなのか推測できるはずだ。


 2013年のXマス2日前、都内の小学校の校庭で男性とその息子が発火するという事件があった。消し止められたが助からず、ふたりとも命を落としてしまった。男性はマスコミに勤務する40代。野球の練習をしていた息子を校庭の隅へと連れ出した後、自らに火をつけた。妻子と別居中だった男性は、子どもに会うことを制限されており、しばしば妻子の家や学校に現れることがあったという。(2ページ「プロローグ」より)

たしかに、そんな報道があった。痛ましい事件だったが、その背後には、子どもに会いたくても会わせてもらえない父親の苦悩があったのだ。そして忘れるべきでないのは、上記の父親のように子どもとの面会を制限され、精神的に追い詰められていく人は現実に多いのだろうということだ。なにしろ、年間20万組以上が離婚しているのだから。

なお、本書に説得力を与えている要因がある。著者自身が、上記の事件のすぐあとに当事者になってしまったということだ。


 翌年の春、妻が3歳の子どもを連れて出ていき、夫婦関係が破綻した。離婚届を受理したという通知が役所から届いたとき、一時的に記憶がなくなり、自転車をなくすほどであった。愛してやまない当時3歳の娘に会えなくなったことが、なんといってもショックだった。自分の両手をもがれてしまったような喪失感がしばらく続き、いつふらっと線路に飛び込んでもおかしくはなかった。生きている実感がまるで湧かず、体重は10キロほど落ちた。(2ページ「プロローグ」より)

そこで著者は、わらにもすがる思いで、同じように子どもと会えなくなった親たちが体験を共有する交流会に参加する。つまりそのような経緯を経て、本書は必然的に生まれたのである。

気になったことがある。身に覚えのないDV(ドメスティック・バイオレンス)を主張され、子どもに会わせてもらえず、苦しんでいる人が多いという話だ。

「数えていたわけではないが、全体の半分ぐらいはあっただろうか」と著者は記しているが、たしかに本書で紹介されている人の多くが「DV夫」としてのレッテルを貼られている(もちろん女性がその立場に立たされているケースもあるのだろうが、男性当事者の数が圧倒的であることから、本書もそちらに焦点を当てている)。

【参考記事】児童相談所=悪なのか? 知られざる一時保護所の実態

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中