最新記事

浮島

世界初の「海に浮かぶ都市」、仏領ポリネシアが建設合意

2017年1月23日(月)18時05分
高森郁哉

The Seasteading Institute

 科学者らが長年構想してきた「海に浮かぶ都市」が、実現に向けて大きく前進した。海上都市の研究を手がける米非営利機関シーステディング・インスティチュート(The Seasteading Institute:TSI)は1月17日、フランス領ポリネシアの政府が同機関と協力し、「浮島プロジェクト(Floating Island Project)」の開発を可能にする法的枠組みを作ることに合意したと発表。オーストラリアのABCニュースなどが報じている。

2019年の着工目指す

 TSIは2008年にカリフォルニア州オークランドで設立された。過去5年にわたり、海に浮かぶ都市を建設する技術を研究するとともに、建設候補地の調査も実施してきたという。昨年9月にはポリネシアのエドアルド・フリッチ大統領から招かれ、タヒチ島、トゥパイ島、ライアテア島の周辺で候補地を調べている。

 TSIは今回の合意にあわせて、ポリネシアでのプロジェクトに取り組む新会社ブルー・フロンティアーズを設立することも発表した。新会社は、自己資金で初期調査と浮島の建設を行う。プロジェクトの費用は1000万〜5000万ドル(約11億〜57億円)になる見込み。

 ABCニュースの報道によると、プロジェクトのための調査は2017年中に完了し、その結果がポリネシアの法案に反映される。2018年末までに法案が可決されれば、2019年に着工できるという。

海面上昇に備える

 TSIはリリース文の中で、同組織の持続可能なモジュラー・プラットフォームは、オランダのエンジニアリング会社Blue21の設計によるものだとしている。

 Blue21はロッテルダムのフローティング・パビリオンで知られる。このパビリオンは、浮力を持つ基礎部の上に、透明のETFEフィルムで覆われた半球状の多目的スペースが作られ、3つ連なった形状をしている。水位が変わっても常に海面に浮いているので、将来の気候変動で海面が上昇しても対応できるという。また、この建物は太陽エネルギーや海水を室温調節に利用するほか、トイレの水を浄化する装置も備える。

 なお、TSIは海上都市のイメージ映像(以下)も公開しているが、これは2015年に開催したデザインコンテストの1位入賞作品に基づく。ポリネシアでのプロジェクトがこの通りに設計されるかどうかは不明だ。

 公海上に海上都市を建設する構想も持つTSIだが、ポリネシアでの浮島は遮蔽された水域で候補地を探す。サンゴ礁で外洋の波がさえぎられる穏やかな海上なら、手頃なコストで浮島を設計できるからだ。初期の浮島では数十人が住める規模を想定しており、うまくいけば数百、数千人の規模に拡大するという。

 TSIは、持続的な浮島の構想が、海面上昇の問題に直面する太平洋の島々にとって解決策の1つになると考えている。将来的には、たとえ島国が水没してしまっても、住民が領海内の浮島にとどまって生活できるよう支援する新事業も立ち上げる計画だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

無秩序な価格競争抑制し旧式設備の秩序ある撤廃を、習

ワールド

米中マドリード協議2日目へ、TikTok巡り「合意

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中