最新記事

日本経済

流行語大賞から1年、中国人は減っていないが「爆買い」は終了

2016年11月19日(土)06時57分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 とりわけブランド品や高級品は他国での販売価格と強い競合関係にある。中国人観光客のブランド品ショッピングを取材したことがあるが、SNSを駆使して友人や親戚と連絡を取り合い、「これは香港のほうが安い」「日本のこのブランドがこの価格なら韓国の商品を買う」などと相談を続けていた。

 また、海外製品をネット販売する「越境EC(電子商取引)」の隆盛も「爆買い」減速の背景にあるという。例えば、越境ECサイト大手「天猫国際」の日本館トップページに掲載されている人気商品「足リラシート」の価格は98元(2016年11月18日現在)。日本円にして約1570円だ。関税11.6元(約186円)を支払っても日本国内の販売価格と大差はない。

 中国の越境EC利用者に話を聞いたところ、「日本旅行に出かける友だちに買い物をお願いするのは、お礼もしなきゃならないし、なにかと面倒です。値段がそんなに変わらないならネット通販のほうが気楽です」と答えていた。

 さらには、今年4月から中国の空港での通関検査が強化されたと伝えられている。8000元(約12万8000円、入国者向け免税店が併設されている空港での基準。それ以外の空港では5000元)の免税枠に変化はないものの、検査される可能性が高まったとして、転売や大量のお土産購入などの大口客に影響したという。

【参考記事】「爆買い」なき中国ビジネスでいちばん大切なこと

数少ない勝ち組、ボッタクリ免税店は今も高収益!?

 大きな背景としては上述のとおりだが、それ以外にも個々の要因が見すごせない。勝ち組と負け組が分化しているのだ。

 冒頭で紹介したラオックスだが、2014年6月オープンの新宿本店や2015年9月に拡大リニューアルした大丸心斎橋店などに象徴される、高級品をメインターゲットにした新店舗が不発に終わったことが大きい。一等地の大型店舗に高級時計や赤サンゴ、黄金製品などがずらりと並んでいるが、客入りは不調のようだ。また中国のネットでラオックスは価格が高いなどの口コミ情報が広がっていることもマイナスだろう。

 一方で、外国人専門のクローズド免税店は堅調と伝えられる。こうした店について知る人は少ないだろう。予約した外国人ツアー客以外はお断りという名目で日本人の出入りが禁止されている。かつて上海租界の公園には「犬と中国人は入るべからず」との看板がかけられていた。恥辱の中国近代史の象徴として今も記憶されている。21世紀の今、日本に「日本人入るべからず」のお店ができているのはなんとも皮肉だ。

 こうした免税店は、中国の旅行会社にマージンを支払ってツアーをまるまる招き入れる形式だが、交通が不便な場所にあることが多く、旅行客は他店と見比べることもできないまま店員のマシンガンのようなセールストークを聞き続けることになる。中国旅行会社のツアーには、こうした軟禁スタイルのボッタクリ免税店、土産物店がつきもの。中国国内だけではなく、ヨーロッパやオーストラリアなど海外でも整備されている。

【参考記事】香港・マカオ4泊5日、完全無料、ただし監禁――中国「爆買い」ツアーの闇

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中