コラム

「爆買い」なき中国ビジネスでいちばん大切なこと

2016年07月05日(火)15時33分

Kim Hong-Ji-REUTERS

<昨年の流行語大賞である爆買いが、早くも「終わった」と言われるようになり、もうひとつの中国ビジネスとして脚光を浴びた越境ECも、政策変更で自由さが失われた。しかし中国ビジネスはまだ終わってはいない> (韓国の観光地で自撮りをする中国人旅行者。これからは"自撮りニーズ"を掴むことも重要だ)

「李さん、中国向けに商売したいんだけど、爆買いは終わったとも聞くし、実際のところどうなの?」

 最近、こんな質問をされたり、人づてに話を聞いたりするようになった。減速したとはいえ、6%台の成長を続ける巨大市場・中国は魅力的な存在だ。その一方でさまざまな罠が待ち構えているのも事実。越境EC企業の社長という肩書きを持つ私、新宿案内人こと李小牧が中国ビジネスの難しさについて伝授したい。

訪日旅行は「爆買い」から「コト消費」へ

 中国の難しさはなんといっても変化の速さ。ちょっと勉強を怠ると、すぐに流れに取り残されてしまう。例えば"爆買い"だ。

 2015年12月、"爆買い"が新語・流行語大賞に選出された。なのに、それからわずか半年で「爆買いは終わった」と言われるようになった。全国百貨店の免税品売上高は4月、前年同月比9.3%のマイナスだった。百貨店だけでなく、中国人に大人気の免税店ラオックスも、今年に入って苦境に陥っている。5月の売上高は前年同月比44%マイナス。ほぼ半減という惨状だ。「中国で食え!」と威勢が良かった人々も随分へこんでいるようだ。

【参考記事】銀座定点観測7年目、ミスマッチが目立つ今年の「爆買い」商戦
【参考記事】香港・マカオ4泊5日、完全無料、ただし監禁――中国「爆買い」ツアーの闇

 もっとも、この数字を見て、じゃあ中国人向けインバウンドはもう終わりだと早合点するような人は中国ビジネスに向いていない。免税品の売り上げこそ下がったものの、訪日中国人客は絶好調だ。新宿・歌舞伎町のわが湖南菜館が連夜、中国人客で賑わっているのがその証拠――と言いたいところだが、もっときちんとした証拠を挙げると、5月の訪日中国人観光客は50万7200人で、前年同期比31%増の"爆成長"中なのである(日本政府観光局の統計)。

 免税品の売り上げ減少、その最大の要因は円高だ。ブランド品や宝飾品、高級時計はどこの国でも同じ物が買える。アベノミクスで円安になったことで今までは日本で買っていた中国人が、円高に振れた今は韓国や香港で買うほうがお得になったというわけ。

 高級品ショッピングの場所としては魅力を失ったとはいえ、中国では今も、日本を紹介するウェブニュースやブログ、書籍は増える一方だ。日本を体験したいという中国人は増えている。「モノ消費からコト消費へ」などと言われるが、ショッピングではなく特別な体験を求めているわけだ。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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