コラム

「爆買い」なき中国ビジネスでいちばん大切なこと

2016年07月05日(火)15時33分

「なるほど、体験の時代か! よし日本の伝統文化を味わってもらおう!」と早合点する人は中国ビジネスに向いていない。日本人が伝えたい体験ではなく、中国人が求める体験を提供しなければ成功は難しい。中国人旅行客と向き合い、「友達がびっくりするような場所で自撮りしたい」「スタバの日本限定品を飲んでみたい」「日本の美容室でカットしたい」といった生の声を受け止めることが必要だ。

 先ほども言ったが、私が経営するレストラン、湖南菜館には中国人旅行客が殺到している。実はこれも「コト消費」の一環だ。自分で言うのもなんだが、私は中国の人気テレビ番組にたびたび出演する有名人。日本に来て、私と記念写真を撮りたいという中国人旅行客は少なくない。私に会えるまで何日も店に通ってくるという熱烈なファンまでいた。

政策変更とニセモノに苦しむ越境ECビジネス

 爆買いと並ぶ中国向けビジネスとして脚光を浴びたのが「越境EC(電子商取引)」だ。中国の保税区に物流倉庫を持ち、そこからネットショッピングサイトを通じて、日本の商品を中国人消費者に販売するというビジネスモデル。中国人にとっては、海外に行かなくても海外製品をネットで買えるので、ブームになってきた。コラム「選挙に落ちたら、貿易会社の社長になれた話」で紹介したとおり、私も貿易会社社長として越境ビジネスに取り組んでいる。

 ところが今、越境EC業界も「変化の速さ」に苦しめられている。こちらの変化は中国の政策だ。今年4月に導入された越境EC新政策では、販売できる商品の種類が限定されたほか、手続きや税金が大きく変更された。結果として今までの自由さが失われてしまった。当局と業者の駆け引きが続いているが、中国の越境EC企業には「もう無理だ」と匙を投げるところもあらわれている。

 さらにもう一つの「速さ」もハードルだ。それは「ニセモノ出現の速さ」。ある商品が人気になると、すぐにニセモノやパチモノが大量に出現するのだ。慎重に選んで正規品を買ってくれる消費者もいるが、なにせ13億人の大国だけによく分からないままニセモノをつかまされる人もごまんといる。一生懸命宣伝して認知度を上げブランドを構築したと思ったら、大量のニセモノ商品が現れて売れなくなってしまう。

 中国EC最大手アリババの創業者ジャック・マー氏は6月14日に投資家向け会合で講演し、ネットで流通しているコピー商品は正規品と同じ工場で製造されていることが多く、品質面では正規品と差はない、と発言した。実際に高品質のニセモノがあることも事実だが、問題はそこにはない。まじめにブランド構築に時間とお金をかけた企業が損をする状況ではまっとうなビジネスは育たない。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story