最新記事

イギリス

前進できない野党の憂鬱:コービン労働党首再選

2016年10月5日(水)17時30分
ブレイディみかこ

リバプールで行われた労働党集会 Darren Staples-REUTERS

<9月24日、英国労働党首選でジェレミー・コービンが圧倒的支持を受けて党首に再選された。しかし、彼を支持した人の中にも、次の総選挙で「勝てるわけない」と思っている人が多い。前進できない野党の憂鬱は深い...>

 思えば、過去1年間の労働党は権力闘争に明け暮れてきた。EU離脱などという一大事に国が直面している時に、労働党がやっていることといえば党首選である。なんじゃそりゃ、と脱力するのは普通の反応だろう。

 「欧州に新たな政治のフォースが覚醒したのは確かだ。次なる彼らのハードルは『運営』だ」と昨年わたしは書いたが、このハードルは高すぎたのだろうか。

 先週末、英国労働党首選でジェレミー・コービンが圧倒的支持を受けて党首に再選された。驚くことではない。172人の労働党議員がコービンに不信任案を提出したときから、「またコービンが選ばれる」とメディアも巷の人々も言っていた。なぜなら、党というものは議員よりも末端党員のほうが圧倒的に多いのであり、その党員が彼を支持しているからだ。

トップダウンかグラスルーツか

 1987年に、左派運動家で学者のヒラリー・ウェインライトが書いた著書『Labour: A Tale of Two Parties』の中で、労働党に昔から存在するという相対する2つの陣営はこう定義されているそうだ。


 まず、一方は、トップダウンの指揮系統で躍進する、選挙選での成功にのみ関心を持つ労働党のエスタブリッシュメント。彼らは政権に就くことだけを目的にしているように見える。そしてもう片方は、片足を労働党に、そしてもう片方の足を広義な社会運動に置き、議会政治だけでは達成できない抜本的な社会改革に関心を持っているグラスルーツ陣営。

出典:https://www.theguardian.com/commentisfree/2016/sep/25/labour-two-sides-bridge-divide-jeremy-corbyn-left-right-principles

 前者は自分たちはプラグマティズムに重きを置くと言い、後者は自らをアクティヴィストと名乗る(コービンは昨年労働党党首に選ばれた時、就任演説で「私は一人のアクティヴィストだ」と言った)。また、前者は自らをリアリストと呼び、後者は理念を重視する。

 現在の労働党では、コービンに不信任案を突き付けた議員たちが前者で、コービン陣営(モメンタムを含む)が後者だ。リアリストを自任する労働党議員の多くは、コービンでは選挙に勝てないと確信している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EU加盟国、米国との貿易合意に緊急輸入制限措置の導

ワールド

米商務省、対米投資の決定権要求もスイスが拒否 貿易

ワールド

片山財務相や小池都知事、「砂漠のダボス会議」で日本

ビジネス

利上げの是非、12月の決定会合で「適切に判断」=植
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中