最新記事

航空機事故

マレーシア航空機撃墜の「犯行」を否定するクレムリンのプロパガンダ

2016年9月29日(木)15時40分
カビサ・スラナ

Maxim Zmeyev-REUTERS

<ロシアの「犯行」を示す報告書に、自国の関与を否定するプロパガンダマシンがフル稼働。過去にはCIA陰謀論やプーチン暗殺失敗説もあった>(写真は2014年7月にウクライナのドネツク州に墜落したマレーシア航空機の残骸。乗員乗客298人が死亡した)

 2014年7月に、マレーシア航空17便がウクライナの親ロ派支配地域で撃墜され、乗員乗客298人が死亡した事件について、オランダやウクライナなど5カ国の合同調査チームが28日、中間報告を発表した。その内容は米情報当局や民間調査団体などの調査結果を裏付けるもので、マレーシア機を撃墜したのはロシアの地対空ミサイルBUK(ブーク)だと断定した。

【参考記事】撃墜機の乗客は生きていた?

 ロシアは一貫して関与を否定しているが、ウクライナと各国の当局者は、ウクライナからの独立を求める親露派とウクライナ政府との間で続くウクライナ紛争へのロシアの関与と、撃墜事件の真相究明を妨害しようとするロシアの試みが、今回の報告で改めて明らかにされたとみる。

 中間報告発表を受け、ロシアはただちにプロパガンダを開始。「政治的な動機」による「偏向」した調査だとウクライナを非難した。

 ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、合同調査チームに参加したウクライナには、「証拠をねじ曲げ、自国に有利なように調査を誘導するチャンス」があったと主張。調査は「残酷なジョーク」のようだと述べた。

「ロシア側だけが正確な情報を提出し、絶えず新しいデータを公開しているにもかかわらず、調査チームは今日に至るまで、ロシア側の提供した圧倒的に有力な証拠を無視し続けている」

「CIAが死体を積んで墜落させた」

 合同調査チームは、ブークの発射場所を親ロ派の武装勢力が支配するウクライナ東部のペルボマイスク近郊と特定した。

 だが、ブークを製造したロシアの防空関連企業アルマズ・アンテイの顧問ミハイル・マリシェフスキーによると、この結論は機体の損傷状況と矛盾する。同社が行った3回の実験では、ブークはウクライナ政府軍の支配地域から発射された確率が高いという。

 クレムリンはこれまでもロシア関与説を葬り去るため誤報キャンペーンを繰り返してきた。一時は、CIAがロシアを陥れるために、無人操縦の旅客機に多数の死体を積んで墜落させたというデマまで流した。ウクライナ政府軍がロシアのウラジーミル・プーチンの乗る飛行機を撃墜しようとして誤ってマレーシア機を撃ち落としたという説を広めたのもクレムリンだ。

【写真特集】マレーシア機撃墜現場で証拠隠滅を図った「悪の所業」

 合同調査チームの報告は、米情報当局の分析結果と一致する。さらに、この2年間独自に調査を進め、ロシアの関与を示す証拠を次々に公開してきた市民ジャーナリスト・サイト「ベリングキャット」の主張とも一致する。

 ベリングキャットは昨年、ハッカーにサイトを乗っ取られた。ハッキング被害防止の情報サイト「スリートコネクト」が28日に発表したリポートによると、ベリングキャットのサイトを乗っ取ったのは、クレムリンとの関係が疑われるウクライナのハッカー集団「サイバーベルクート」だ。彼らはモスクワ在住のベリングキャットの調査員のアカウントにも侵入。パスポートのコピーや本人の顔写真など、個人情報をネット上で暴露した。

「弱小のジャーナリスト団体をつぶすためにこれだけやるなら、大手報道機関相手には何をするかわからない」と、スリートコネクトは警告している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中