最新記事

サイエンス

サイボーグ「エイ」が生物と機械の境界を越える

2016年7月11日(月)17時50分
山路達也

Karaghen Hudson & Michael Rosnach

<ハーバード大学の研究チームが、生物と機械の境界線上にあるサイボーグ「エイ」の作成に成功した...>

 [ヤモリのように壁を上るロボット]や、[ハチのように空中にホバリングできる超小型ドローン]など生物を模した機械が世界各地で研究されているが、[ハーバード大学Kit Parker教授らの研究チームが発表したロボット]は生物と機械のハイブリッド、まさにサイボーグと呼べるインパクトがある。

 このロボットは、実物のアカエイを10分の1スケールで再現しており、長さは16ミリメートル、重さは10グラムほど。たんに形態がアカエイに似ているだけでなく、本物のエイと同じようにヒレをはためかせ水中を泳ぐ。

kon.gif

Image: Sung-Jin Park et al., 2016/Science

 エイのボディは金の骨格にポリマーを貼り合わせた構造になっているのだが、この中には20万個のラットの心筋細胞が配置されている。心筋細胞は遺伝子操作されていて、外部からの光刺激に反応して収縮するのだ。

 特定の周波数の光を当てると、ヒレに埋め込まれた心筋細胞は収縮し、下向きの動きが発生する。下向きの力は骨格に蓄積され、心筋細胞が弛緩したときに上向きの動きとして開放される。

 心筋細胞を巧妙につなげて配置したことにより、体の前方から後方までヒレの上下動が波打つように伝わっていく様子は見事としかいいようがない。さらに、光の明滅パターンを変えることで、エイの泳ぐスピードや進行方向を電線なしで外部からコントロールできるようになっている。

 近年はソフトロボットと呼ばれる、柔らかい素材を使ったロボットが注目されるようになっているが、機械的なアクチュエーターよりもエネルギー効率の高い筋肉細胞を使うことで、この分野にもブレークスルーが起こるかもしれない。また、心筋細胞の緻密な制御は、人工臓器の実現にもつながってくるだろう。



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中