最新記事

キューバ

キューバ系アメリカ人を乗せない客船が象徴するカストロ抑圧体制

アメリカとの国交回復後もキューバの人権抑圧は続いている

2016年4月19日(火)17時00分
マイク・ゴンザレス(米ヘリテージ財団上級研究員)

渡航自由化 キューバへ向けマイアミを出港したカーニバル社のクルーズ船(昨年9月18日) Joe Skipper-REUTERS

 我が家はキューバ系だが、クルーズ船でキューバに行くことなど考えたこともない。

 キューバの打楽器コンガのリズムに熱狂する中年アメリカ人に押しつぶされそうになるぐらいなら死んだほうがまし、というのが妻の持論だし、私自身も、自由な国になるまで2度と戻らないと誓って出てきて以来、44年間キューバへ足を踏み入れていない。

 だが事情は変わった。マイアミに本社を置くクルーズ会社カーニバルクルーズが最近、キューバで生まれたキューバ系アメリカ人の乗船を拒否するという差別的な方針を発表したのだ。船腹に"Sue Me(訴えてください)"と大書したようなものだ。どこまで本気か、乗船を試みたいものだ。

 カーニバル社の新方針は、キューバのラウル・カストロ政権に対するバラク・オバマ米大統領の宥和策が間違いだったことの象徴だ。今回、世間にもそれをさらけ出すことになった。

【参考記事】渡航自由化、キューバの本音

 あらゆる独裁政権と同様、カストロ政権はまるでバクテリアだ。接触すれば、感染する。

 カーニバルもカストロ病に感染したのだろう。キューバとビジネスをしようとすれば誰でも同じことになる。なぜなら、ラウル・カストロ国家評議会議長の義理の息子でキューバ経済を牛耳るルイス・アルベルト・ロドリゲス・ロペス・カジェハ将軍を必ず通さなければならないからだ。

【参考記事】孤独な共産主義国、キューバ

 ジョン・ケリー米国務長官もカーニバルの馬鹿げた方針に釘を刺してこう言った。「カーニバルは、アメリカ人差別につながるキューバの政策を容認すべきではない」と語ったのだ。

 ビジネス専門通信社のブルームバーグは「キューバでビジネスをしたいなら、将軍をビジネスパートナーに迎える覚悟を決めよ」というタイトルの記事で、キューバが抱える問題を列挙している。



 それでもやるなら、自分が将軍に渡した金は、より多くの銃弾や拷問器具を買うために使われることを知ってほしい。それでもやるなら、後で不眠になっても十分に強い薬はないかもしれないことを考えてほしい。

 事の本質を確認しておこう。カストロ政権はキューバ系アメリカ人をアメリカ人と認めていない。昨年キューバで再開したアメリカ大使館のホームページを引用する。



 キューバ政府は、キューバ生まれのアメリカ人もしくはキューバ人の親を持つアメリカ人が、アメリカ国籍を有することを認めていない。この条件に該当する個人はキューバ国民とみなされ、兵役を含めたキューバ国民の義務や制約の対象となる可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米韓制服組トップ、地域安保「複雑で不安定」 米長官

ワールド

マレーシア首相、1.42億ドルの磁石工場でレアアー

ワールド

インドネシア、9月輸出入が増加 ともに予想上回る

ワールド

インド製造業PMI、10月改定値は59.2に上昇 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中