最新記事

第2次大戦

AP通信、ナチスとの黒歴史

ナチスドイツで西側唯一のメディアとして活動するために払った代償は

2016年4月7日(木)17時00分
ルーシー・ウェストコット

AP通信がヒトラー政権に擦り寄った過去が明らかに Keystone-France-Gamma-Keystone/GETTY IMAGES

 30年代にAP通信社がナチスと手を組み、ヒトラー政権のプロパガンダを制作していた──。英紙ガーディアンが先週、そんな驚きの報道を行った。

 記事の元になったのは、ドイツの学術誌「現代史研究」に掲載されたハリエット・シャルンベルクの論文。マルティン・ルター大学ハレ・ウィッテンベルクで歴史を研究するシャルンベルクによると、AP通信とナチスは「互恵的な協力関係」にあり、それはヒトラー政権が「虐殺の戦争を普通の戦争に見せ掛ける」ことを可能にした。

 ニューヨーク本拠のAP通信がなぜ、ヒトラー時代のドイツで唯一の西側メディアとして活動できたのか。その謎が今回の記事で解けるかもしれない。

ナチスの宣伝機関に

 ガーディアンによればAP通信は、ナチスが施行した編集者法に基づき記者登録をした。これは「国内外での第三帝国(ドイツ)の力を弱めることを意図する」記事を書かないと約束したことを意味する。AP通信はナチスのプロパガンダ部門の記者やカメラマンを雇い、ナチスに有利な報道を垂れ流した。

 AP通信は記事が出た日、「第二次大戦時代の従業員による口述記録を含む、膨大な社内資料」をシャルンベルクと共有したと声明を発表。「論文の内容はAP以外の情報にも基づいている。当社が関知しない、戦中・戦前の個々人の活動について書かれている」と釈明した。

【参考記事】ナチスをめぐるロシアとドイツの歴史問題

 だがいくら弁解しても、独裁国家に擦り寄る姿勢は否定できないかもしれない。今もあの独裁国家と手を組んでいるからだ。

 APは12年、北朝鮮の首都・平壌に支局を開設。その前年、情報へのアクセスと引き換えに北朝鮮の国営メディアが流すプロパガンダを配信することにAP首脳部が合意していたと、北朝鮮専門のニュースサイトNKニュースが14年に報じている。

 AP通信は北朝鮮政府による検閲は否定しているが、「前科」持ちの説明を額面どおりには受け取りにくい。

[2016年4月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米12月失業率4.6%、11月公式データから横ばい

ビジネス

米10月住宅価格指数、前年比1.7%上昇 伸び13

ワールド

プーチン氏、イラン大統領と電話会談 核計画巡り協議

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中