最新記事

中国人観光客

銀座定点観測7年目、ミスマッチが目立つ今年の「爆買い」商戦

2016年2月4日(木)19時14分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 2月1日、三越銀座店を訪れた。三越全体としても外貨両替機や給湯器、フリーWi-Fiを設置するなど春節商戦の準備を整えている。中国人観光客は親戚や友人に買い物代行を頼まれているケースが多く、売り場で写真を撮っては中国にいる人とSNSで相談するのがよくあるパターン。フリーWi-Fiはお土産選びがはかどる便利ツールだ。

【参考記事】「爆買い」の火は消えるか?

 三越全体では中国人がそこそこ入っていたが、「Japan Duty Free Ginza」は閑古鳥が鳴いている。旧正月休みの本番はこれから、それにオープンしたばかりで知名度が足りないと考えれば仕方がないのかもしれないが、近くにあるラオックス銀座店がツアー客でにぎわっていたことと比べると鮮明な対比を描いていた。

 数少ない中国人買い物客に話を聞いたところ、「名前は知っているけど高すぎるブランド品か、まったく知らない商品か、どちらかしか置いていません。欲しいものが置いてない」との厳しい評価だった。中国人ツアー客の多くは日本に来る前に買いたいものを決めている。もちろん買い物代行で頼まれる品も中国で知られたものだけだ。中国人がいない巨大免税店は、日本人が売りたいものと中国人が買いたいものの間に広がる巨大なギャップを象徴しているかのようだ。

「Japan Duty Free Ginza」としてはツアー客ではなく、個人旅行客や富裕層をターゲットにしているのだろうが、この点でも気になる話を聞いた。最近の中国個人旅行のキーワードは「個性化」であり、人とは違う特徴のある体験を求めている。特色ある老舗が集まる銀座は、本来ならばもっとも個人旅行にマッチするはずだが、中国人個人旅行客の話を聞くと「中国人が多すぎてつまらない」「どこもかしこも中国語ばかりでなえる」「東京旅行に行く中国人はみんな銀座に行っている。もっと別の場所に行きたい」と厳しい評価が帰ってきた。

「中国人を歓迎してくれるのはありがたいけれど、せっかくならば普通の日本人が使っているお店で買い物してみたい」との意見も。実際、中国人向け免税店には日本人がまったく知らないブランドの商品が大手ブランドとして売られていることもあり、警戒感も高まっているようだ。

 お客様の気持ちになって相手に合わせるのがおもてなしの心だが、そのお客様が「そのまんまの日本を味わいたい」と言っているとなると......。果たしてどうするのが正解なのか、悩ましい課題である。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中