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中国新華網「天皇に謝罪要求」──安倍首相不参加への報復か

中国の言うことはめちゃくちゃだ。だが、アメリカがその中国とうまく付き合っている事実も忘れてはならない

2015年8月31日(月)15時45分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

解決済み 92年に訪中し、お詫びもした天皇陛下(左端は当時の江沢民総書記)REUTERS

 8月25日、中国政府の新華網は、日中戦争における昭和天皇の責任を問い日本を非難した。安倍談話に対しては安倍首相が抗日戦勝行事に参加する可能性があることから控えた中国だが、不参加となった今、なり振り構わない。

正常とは思えぬ新華網の「天皇謝罪要求」

 8月25日、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」は「日本の侵略戦争の犯罪行為を謝罪すべきは誰か」というタイトルで評論を載せた。

 その要旨は以下のようなものである。

1.日本軍国主義が発動した侵略戦争は、軍国主義の天皇や政府、軍隊、財閥などの主要な勢力が作り上げたもので、(中略)多くの犯罪を犯し、侵略戦争に対して逃れない罪を負っている。

2.裕仁天皇(昭和天皇:筆者注)は、日本が侵略した被害国と人民に、死ぬまで謝罪の意を表したことがない。その後継者(現在の明仁天皇:筆者注)は、(中略)謝罪を以て氷解を得、懺悔を以て信頼を得、誠実を以て調和を得るべきだ。

 とても尋常な感覚を持っているとは思えない評論だ。

 天皇の戦争責任に関しては、1946年から1948年にかけて行なわれた極東国際軍事裁判(東京裁判)において「戦争犯罪人としての起訴から日本国天皇を免除する」ことが合意され、天皇を訴追しないことが決定された。

 この問題は「国際的に」すでに解決済みなのである。

 東京裁判においては、各国検事をメンバーとした執行委員会が設立されており、その中に「中華民国」の代表もいる。

 中国はつねに「一つの中国」を主張して、「中華民国の功績」は「中華人民共和国の功績」として、今まさに「中華民国」による「抗日戦争勝利」を受け継いで(横取りして?)、盛大に戦勝70周年記念を祝賀しようと燃え上がっているのではないのか?

 抗日戦争勝利は自分(現在の中国)のものだが、中華民国の代表が入っていた東京裁判は「中華人民共和国が参画していなかったから、別途、天皇の戦争責任を追及してもいい」とでも言うつもりだろうか?
常軌を逸している。

 おまけに1992年、昭和天皇の「継承者」である明仁天皇は、江沢民総書記(当時)の強引な招聘により中国を訪問して、きちんと「謝罪」を表明した。これは歴史的な出来事であった。

 このとき江沢民は、1989年6月4日に起きた天安門事件において民主化を叫んだ若者を武力鎮圧したことに対する西側諸国の経済封鎖を、何とか日本の天皇陛下の訪中によって切り崩していこうともくろんでいた。

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