最新記事

カンボジア

「血の弾圧」関与疑惑を韓国政府はぬぐい切れない

賃上げデモをテロ活動に仕立てた噂を否定する韓国政府への批判が広がっている

2014年1月31日(金)14時53分
ジェフリー・ケイン

「搾取」に耐えかねて プノンペンのデモで警察に逮捕された男性 Nicolas Axelrod/Getty Images

 3週間前の出来事など、なかったかのようだ。カンボジアの首都プノンペン近郊のカナディア工業団地では、いつものように衣料品工場が稼働し、海外の大手アパレルブランド向けの製品を作っている。

 しかし今月3日、ここで起きた最低賃金の引き上げを求める労働者のストを、兵士が銃と鉄パイプで鎮圧。そのとき5人が死亡、数十人が負傷した。

 工場は操業を再開したが、波紋はいまだ消えていない。外国政府、特に韓国政府が水面下で武力鎮圧に関わっていた疑惑が指摘されている。現地の韓国大使館がカンボジア政府の「国家テロ対策委員会(NCTC)」に働き掛けを行ったというのだ。

 実際、本誌既報(1月21日号)どおり、韓国大使館は当初ウェブサイトの声明で、軍とテロ対策機関に韓国系企業の保護を求めたと認めていた(現在、声明文は削除されている)。

 その後、韓国外務省は筆者らに反論文を送り、韓国の投資家のための義務を果たしたにすぎず、武力鎮圧を求めてはいないと主張。さらに日本と中国の政府も「同様の要請」をしたとされていると指摘した(取材に対し、日本大使館はコメントを拒否。中国大使館の広報担当者とは連絡がついていない)。

 韓国大使館は別の声明で、韓国企業は「被害者」だと主張。また、当初の説明を軌道修正し、NCTCの文民メンバー(ほかの要職を2つ兼務している)と短時間話をしたが、正式な要請は行っていないと述べている。

労働者はテロリスト?

 しかし、韓国政府の説明に納得していない人は多い。先週には、ソウル市庁舎前で在韓カンボジア人がデモを行い、韓国企業による工場労働者の「搾取」を非難。ストの武力鎮圧を厳しく批判した。

 9.11テロ後にジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)が「対テロ戦争」を掲げて以降、世界の指導者らは敵対勢力を弾圧する口実に「テロ対策」を用いてきた。カンボジアでもNCTCがフン・セン首相の敵対者ににらみを利かせてきたようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適

ワールド

お知らせ=重複記事を削除します
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中