最新記事

北朝鮮

金日成の「笑える」長生き大作戦

長寿達成のために研究チームまで立ち上げた金日成の妄執と国家の異常

2013年12月4日(水)18時47分
ミシェル・フロクルス

「永遠の主席」 金日成は極度に老化を恐れていた Kim Kyung Hoon-Reuters

 北朝鮮では建国の父として「永遠の主席」とあがめられる故金日成(キム・イルソン)。その彼は生前、120歳まで生き永らえようと躍起になっていたらしい。

 韓国紙の朝鮮日報によると、金は主治医の1人だった金素妍(キム・ソヨン)に長寿の方法を探し出すよう命じていた。素妍は79年に「偉大なる首領様」の長寿を達成するための研究機関のトップに昇格したと、自身の新著で述べている。金日成は結局、94年に82歳で死去したが、彼が長生きするために試したさまざまな方法には多くのエピソードがある。

 92年に韓国に亡命した素妍によれば、首領様は65歳頃から老化を気にするようになった。そのため国内トップの医学専門家が招集され研究が始まった。

 研究チームは1750種もの薬草と、それぞれが持つ健康への効能を分類。長寿に関係あるとみられた植物の効能や副作用が分析され、栽培や実験も行われた。

 チームはまた、心理的な手法も用いた。それは何と「笑い」だ。医師らは金日成が少しでも笑うように促し、この方法に真剣に取り組んだ。「私たちは舞台俳優を招いて喜劇を演じさせたり、5〜6歳の子供たちに愛くるしいことをさせた」と、素妍は振り返る。首領様を1日5回以上笑わせた演者には「称賛に値する俳優」という称号が与えられたという。

 金日成の長寿への野望が、北朝鮮における国家公認の芸人を育成するきっかけにもなったと素妍は言う。指導者層を楽しませるための女性の一団「喜び組」もその一例だ。

 だが残念ながら、金日成が長寿の奇跡を求めてどんなに手を尽くしても健康状態の悪化は止められなかった。金は78歳になると、若くて健康な男性たちから輸血を受け始めたが、あまりの輸血量に血液型がABからBに変わったほどだったという。

 素妍は、「過剰」な治療がかえって金日成の体の負担となり、死因の心臓発作につながった可能性もあると話す。永遠の主席でも永遠の命は手に入らなかったということだ。

[2013年12月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

再送トランプ氏とFRBの対立深まる、クック氏解任で

ビジネス

米8月CB消費者信頼感指数97.4に低下、雇用・所

ビジネス

米耐久財コア受注、7月は+1.1% 予想以上に増加

ワールド

再送仏政権崩壊の可能性、再び総選挙との声 IMF介
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「ありがとう」は、なぜ便利な日本語なのか?...「言…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    トランプ、ウクライナのパイプライン攻撃に激怒...和…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中