最新記事

現地取材

シリア首都で暮らす市民のリアルな日常

2013年10月21日(月)14時06分
ラシャ・エラス(ジャーナリスト)

同居を余儀なくされた嫁姑のバトルも

 少なくともファティマの結婚生活はうまくいっている。だが多くの夫婦は、内戦で体に傷は負っていなくても、夫婦関係に問題を抱えるようになった。ダマスカスの住民の元には、国内各地から安全を求めて親戚が身を寄せてくる。家族の人数が2倍、3倍に膨れ上がっている家庭も多い。

 ワシドは、ダマスカス郊外の町イツェヤに住んでいたが、治安が悪化してきたため、両親が住むダマスカスに家族で引っ越した。だが今は再び、犯罪と戦闘が絶えないイツェヤに戻ってきた。

「ここは生活するのにも、子供たちを育てるのにも最高の場所とはいえない。でも両親の所にいたら、妻か母のどちらかが家を出ていっていたと思う」と、ワシドは言う。「2人は食事の献立から子供たちが着る服まで、ありとあらゆることをめぐってけんかしていた」

 すべての家族が2世代同居に苦労するわけではない。やはりイツェヤに住んでいたヤシールは、戦闘が激しくなって以来、ダマスカス中心部にある自分の実家と妻フダの実家の間を行き来しているが、お互い義理の両親との関係は上々だ。

 それでもストレスと無縁とはいえない。「妻は肩の痛みなど、ストレスが原因の体調不良に悩まされている」と、ヤシールは言う。「マウスピースをして寝てもアゴと歯が痛むほど、歯ぎしりをするようになった」

 ヤシールの仕事はスポーツクラブのトレーナーだが、内戦のせいでほとんど失業状態だとぼやく。この1年で富裕層の多くが国を去ったため、ヤシールが個別指導を担当する客は数人にまで減少した。

 仕事がないから「退屈な主婦」のような生活だと、ヤシールは言う。「家にいる時間がほとんどだから、うちの女たちとおしゃべりするか、メロドラマを見て時間をつぶすしかない。体重もかなり増えてしまって、自分で自分が嫌になるよ」

スポーツジムが社交の場

 職場に行けば、運動や健康維持にまじめに取り組もうとしない客に腹が立つ。今でもダマスカスでは数軒のスポーツクラブが営業を続けており、会員数は増加しているという。料金はこの1年で2倍の月20ドル相当になったが、利用者は文句も言わず払っているようだ。

 ヤシールは言う。「こんなにスポーツクラブが混んでるのは見たことがない。要するにみんな、ほかに行く所がないんだ。トレーナーとしてはいらいらするよ。みんな体を鍛えるためではなく、友達と会うために来てるんだから。クラブの外に一歩出た途端にたばこに火をつけたり、その足で水たばこを出す店に行ったり。そしてみんなジャンクフードを食べるんだ」

 だが少なくとも、ジムに行くということは家を出ることになる。キンダは、最近は友人たちと会うのもほとんど自宅だと語る。「夫が仕事から帰ってくるまでの間、家で女ばかりの集まりを開くの。ほとんどが近所の人よ。水たばこを用意してお茶を入れ、デザートやフルーツも並べたら、その周りに座っておしゃべりする」
キンダの11歳の娘ヤラは、いたずらっぽく笑ってうなずいた。「そうそう。みんなでたばこを吹かしてる。そしてみんなすごく太ってる」

 冒頭のファティマは肥満とは無縁だ。何せ今月だけで6キロも体重が減ってしまったのだから。原因は分からない。

「精神的なものだと思うわ」とファティマは言い、ぶかぶかになってしまった服の両脇を広げた。「体重計に乗るたびに痩せていっているのが分かるの」

 痩せたのはあくまで内戦のもたらしたストレスのせい。何か悪い病気が隠れているわけではないと祈るしか、今のファティマにはできない。だいたい、故郷モアダミヤに残った友人たちや近所の人々のことを思えば、自分は運が良かったのだから......彼女はそう自分に言い聞かせている。

[2013年10月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円債2300億円積み増しへ、金利上昇で年度5550

ビジネス

英、「影の船団」対策でロ石油大手2社に制裁 中印企

ビジネス

TSMC、通期見通し上方修正 第3四半期39%増益

ビジネス

8月第3次産業活動指数は2カ月ぶり低下、基調判断据
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中