最新記事

アフガニスタン

米軍公認部隊にはびこるレイプ魔

地域の治安を守るべく創設された「地方警察」が無垢な少女を襲い、住民の怒りは彼らを育てたアメリカへ

2013年8月7日(水)18時20分
ロン・モロー(イスラマバード支局長)、サミ・ユサフザイ(イスラマバード)

純潔の敵 カブールの家に入るアフガニスタン女性。いつも警察や民兵の性的暴行の恐怖に怯えている Ahmad Masood-Reuters

 その日、夜更けに自宅へ帰ったジュマディン(45)は愕然とした。入り口の扉が乱暴に壊されている。いったい何が? 物音ひとつせず、人の気配もない。留守番していたはずの娘モニジャ(19)はどこへ?

 今年1月のことだ。妻はアフガニスタン北部クンドゥズ州の自宅から幼い子供たちを連れて、パキスタンに住む親戚の家を訪ねていた。だから長女が1人で留守を守っていた。そこへ何者かが侵入したのだとすれば......。

 父の悪い予感は当たった。家じゅうを捜し回り、ようやく家畜小屋で見つけたとき、娘は首をつろうとしていた。

 父は震える娘を抱き締め、毛布にくるんで落ち着かせた。しかし「あの子は私と目を合わせようとしなかった」と、ジュマディンは本誌に語った。

 無理もない。モニジャは3人の男たちに繰り返しレイプされていたのだ。しかも男たちは、米軍公認のアフガニスタン地方警察(ALP)の制服を着ていたという。怒りと絶望を抑えて、父は娘に言い聞かせた。「運命と思うしかない。この恥辱を、私と一緒に耐えてくれ」

 まじめに農業を営んできたジュマディンは言う。「ひどい世の中だ。力のある連中にレイプされたら、その娘も娘の家族も泣き寝入りするしかない。貧困や災害なら耐えられる。しかしレイプは一家の恥、家族も二度と元どおりにはなれない」

 翌朝、ジュマディンは村のモスク(イスラム礼拝所)に出向き、前夜の出来事について聞いて回った。村人たちの話では、米軍の指揮下にあるはずのALP要員が、イスラム原理主義勢力タリバンの摘発という名目で家々に踏み込んだという。

 ジュマディンはパキスタンで家族と合流するため、家畜や家財道具を売り払った。「娘の人生と家族の未来を奪った場所にはとどまれない」と、彼は言う。

 ジュマディン一家は現在、パキスタン側の難民キャンプで暮らしている。モニジャはまだ立ち直れず、毎晩悪夢にうなされているという。「タリバンの時代なら、女がレイプされることはなかった。いっそ自分もタリバンに加わり、爆弾を巻いたチョッキを着て、(大統領のハミド・)カルザイやアメリカ人、そして彼らが育てたALPの奴らを吹っ飛ばしてやりたい」

 ジュマディンの娘だけではない。今やクンドゥズ州や同じ北部のジョズジャン州では、ALPや「アルバカイ」と呼ばれる民兵たちは「少女の純潔を奪う敵」と呼ばれている。

成り済まし事件も発生

 戦闘部隊の全面撤退を来年に控え、米軍はALPを地域の治安部隊と位置付けて組織してきた。武装したALPが地域社会でタリバンの浸透を防ぎ、その間に国軍がタリバン掃討に注力するという役割分担だ。

 ALP要員は地元で募集し、身元調査をした上で採用を決め、米軍の特殊部隊が3週間の訓練を施し、武器も制服も支給する。月190ドルほどの給料も、アメリカが提供する資金から払われている。ALP要員は、今はまだ北部を中心に約2万人にすぎないが、アメリカは18年までに4万5000人規模に増員する計画で、総額12億ドルの追加支援も決めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国製造業PMI、12月は9カ月ぶり節目回復 非製

ワールド

台湾は警戒態勢維持、中国船は撤収 前日まで大規模演

ワールド

ペルーで列車が正面衝突、マチュピチュ近く 運転手死

ビジネス

中国製造業PMI、12月は50.1に上昇 内需改善
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中