最新記事

外交

中国ナルシスト愛国心の暴走

政府が植え付けた被害者意識と独善的な愛国主義が中国近海の領有権問題解決を永久に遠のかせる

2012年9月26日(水)15時46分
ロバート・サッター(ジョージ・ワシントン大学国際関係学部教授)

仕組まれた怒り 中国の市民は自分たちの主張が正しいと信じて疑わない(9月18日、四川省成都市) Jason Lee-Reuters

 東シナ海に浮かぶ5つの島と3つの岩礁から成る尖閣諸島。その領有権をめぐる日中間の対立が再び先鋭化したのは8月半ばのこと。中国各地では反日デモが起き、メディアやネット上には政府が領土防衛にもっと力を入れ、日本の「不法占拠」に対抗するべきだという声が高まった。

 中国ではこれに先立ち、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島の領有権問題でも、政府にもっと厳しい態度を求める世論が高まった。その声に応えるように、中国政府は武力行使以外のあらゆる手段を駆使して東南アジア関係諸国に揺さぶりをかけた。

 ある時は軍事関連施設の設置を検討すると発表し、またある時は経済制裁をちらつかせ、石油開発にも乗り出した。関係諸国は今のところ有効な対抗手段を取れていない。ASEAN(東南アジア諸国連合)も足並みが乱れて、中国に対して結束することができずにいる。

 外交評論家らが指摘するように、中国の民衆やエリート層が領土問題で政府に厳しい対応を求めるようになったのは、冷戦終結と世界各地における共産主義の崩壊以降、政府が愛国主義を強力にあおってきた結果だ。

 その愛国主義とは、「中国は19世紀以降ずっと不当に扱われ、列強によって領土や主権を踏みにじられてきた。今の中国は、自らの支配権を守り、領有権問題の起きている領土や主権を取り戻す力を付ける途上にある」という被害者意識をベースにしている。

 政府のこのプロパガンダが奏功して、民衆とエリート層の間に被害者意識が生まれた。厄介なのは、毛沢東や小平らカリスマ的な指導者がいなくなり、世論に敏感な集団指導体制が確立した今、民衆とエリート層の意見が外交政策に与える影響が拡大していることだ。

 とはいえ、被害者意識は中国当局が育ててきたいびつな愛国主義の一面にすぎない。それと同じくらい重要なのは、中国政府が自国民に刷り込んできた「身勝手に国益を追求する他の大国と違って、中国は国際社会で正義を実践する国だ」というイメージだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米9月ISM製造業景気指数、7カ月連続50割れ 新

ワールド

米最高裁、トランプ氏によるクックFRB理事の解任要

ワールド

米SEC、職員9割強一時帰休に 政府機関一部閉鎖で

ワールド

米国防総省、職員に秘密保持契約とポリグラフ検査を義
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」してしまったインコの動画にSNSは「爆笑の嵐」
  • 3
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引き締まった二の腕を手に入れる方法
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かっ…
  • 8
    アメリカの対中大豆輸出「ゼロ」の衝撃 ──トランプ一…
  • 9
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 10
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 4
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 7
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 8
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中