最新記事

メディア

韓国は北朝鮮並みの言論統制国家?

「国家の敵」北朝鮮に関するジョークが国家保安法違反に問われる強権体質

2012年6月21日(木)15時15分
ジャスティン・マッカリー

要注意 ツイッターやネット放送でも言論の自由は狭まっている Lee Jae-Won-Reuters

 朝鮮半島では国家への脅威と見なされる表現が抹消されたり、政府を批判する人が投獄されたりすることがある。北朝鮮の話だろうって? いや、韓国でも同様な事件が問題になっている。

 韓国人の写真家パク・ジョングン(23)はツイッターで北朝鮮を嘲りの対象にしたり、北朝鮮当局のツイートを冗談のような形で紹介したりした。だが韓国当局にはパクのユーモアは理解されなかったらしい。

 今年1月、パクは国家保安法違反で起訴された。「国家の敵への称賛と支持」のかどで実刑を受ける可能性もある。

「国家の安全保障とは何の関係もない話だ」と、人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルのサム・ザリフィは言う。「平和的に発言する人間を拘束するのは国際法違反だ」

 48年に制定された国家保安法は北朝鮮を賛美したり、工作員に協力したりする人物を取り調べるために使われる。半面、言論の自由を抑圧する手段にもなっているという批判もある。

「私たちは70年代以来、言論の自由への侵害を数多く報告してきたが、どの事例にも国家保安法が利用されている」と、アムネスティ・インターナショナル韓国支部のパク・ジノクは言う。

 アムネスティのパクは、今回の出来事を見ても同法の問題点は明らかだと語る。「懸念すべきなのは起訴の正当性ではなく、政府が国家保安法を言論統制に利用し、国民を自由に発言させまいとしていることだ。以前の標的は北朝鮮の支持団体だったが、今では個人だ」

 李明博(イ・ミョンバク)が08年に大統領に就任して以来、この傾向が強まっている。国家保安法違反の疑いで取り調べられた人は07年は39人だったが、10年は151人に急増。北朝鮮寄りとされる投稿をネットで行った人への法的措置は、08年の5件から10年には82件に増えた。

 昨年、ネット放送の人気出演者で野党政治家の鄭鳳株(チョン・ボンジュ)に対する裁判で、李大統領が就任前に株価操作に関与したとの噂を流した罪で懲役1年の実刑が確定。鄭の支持者は、李の出身母体の与党ハンナラ党(現セヌリ党)が今年4月の総選挙をにらんで、野党への支持をそぐために取った動きだったと主張している。

 国連の言論・表現の自由に関する特別報告官フランク・ラ・ルエも「(韓国における)表現の自由は狭まっている」とみている。

[2012年5月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国中銀、政策金利2.50%に据え置き 予想通り

ビジネス

英も「貯蓄から投資へ」、非課税預金型口座の上限額引

ワールド

来年のG20サミット、南ア招待しないとトランプ氏 

ビジネス

米ホワイトハウス付近で銃撃、州兵2人重体 当局はテ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中