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目からウロコの感情と性格の科学

くよくよする性格をどうにかしたい? 脳と感情に関する最新研究の成果で、ネガティブ思考も「脳トレ」次第でプラス思考になる

2012年4月27日(金)22時21分
リチャード・デービッドソン(ウィスコンシン大学マディソン校教授) シャロン・ベグリー(科学ジャーナリスト)

新発見 感情の一部が理性をつかさどる脳の部位で作られているのなら、人はもっと上手に感情パタンをコントロールできる Istockphoto

 大衆向けの心理学本が好きな人たちはおそらく、人間の感情の表し方は大体同じで、人によって大した違いはないと思っているだろう。万人に共通する悲しみのプロセスがあり、恋に落ちる際の一定のステップがあり、恋人に振られたときに味わう感情の標準パターンがあると考える人は多い。

 しかし、この考え方は間違いだ。私(デービッドソン)は感情の神経生物学を研究して数十年になる。同じような環境で生きてきた人が同じような経験をしても、極端に異なる反応を示すケースを数多く見てきた。

 離婚による心の痛手から素早く立ち直る人もいれば、いつまでも自分を責めたり、落ち込んだりし続ける人もいる。失業してもすぐに元気を取り戻す人がいるかと思えば、対照的に失業した何年も先まで自信喪失にさいなまれる人もいる。こうした反応は血がつながっている親と子、きょうだい同士でも人それぞれ異なる。

 野球のリトルリーグで審判に誤審されて、自分の子供がアウトにされたとき、肩をすくめるだけで済ませる父親もいる。その一方で、ベンチから飛び出して審判に詰め寄り、顔色を変えて怒りをぶつける父親もいる。

 このような違いはどうして生まれるのか。研究を重ねるうちに、その原因は「感情スタイル」の違いにあると、私は考えるようになった。

 私が「感情スタイル」と呼ぶのは、さまざまな経験に対して私たちが6つの側面で示す反応のパターン(反応の傾向、強さ、持続期間)の組み合わせのこと。その6要素とは、心のダメージを受けた後で立ち直る力、将来に対する楽観性、自己認識力、周りの人の気持ちを感じ取って空気を読む力、注意力、環境への感受性である。

 私たち一人一人の顔立ちや指紋が違うように、感情スタイルも人によって違う。

感情スタイルを生む脳

「人間の性格は一人一人違う」という当たり前のことを言っているだけなのではないかと、思うかもしれない。しかし、人間の性格を決める神経学的メカニズムは解明されていない。脳内のどういう神経活動が性格の違いを生み出すのかは、明らかになっていないのだ。

 感情スタイルという考え方が画期的な点は、ここにある。私は神経画像処理などの手法を用いて、感情スタイルと脳内の神経活動の関連を解明した。

 その結果得られた発見は、科学界の長年の定説を覆すものだった。感情スタイルの一部は、認知活動に携わる脳の部位の働きによって生み出されると分かったのである。

 この発見に衝撃を受けた研究者も多かった。教科書的な常識によれば、認知活動と感情は脳内のまったく別々の回路が担っているはずだった。認知活動は、進化のプロセスで比較的最近になって発達した高度な部位である前頭前皮質が受け持ち、感情は、もっと原始的な部位である大脳辺縁系が受け持つものと考えられてきた。

 感情が(少なくとも部分的には)理性をつかさどる脳の部位で形作られるという発見は、実用的な面でもいくつか大きな意味を持つ。特に注目すべきなのは、この発見を前提に考えれば、体系的なメンタルトレーニングにより自分の感情スタイルを変えられるという点だ。

 神経科学者は長い間、おおむね人間の認知活動や、脳の前頭前皮質のその他の機能にしか関心を払ってこなかった。感情にはほとんど興味を示さず、心理学者に任せ切りにしていた。

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