最新記事

イスラエル

イラン空爆論はただのはったり?

ネタニヤフの強硬路線が交渉を有利に運ぶための駆け引きと思える証拠

2012年4月19日(木)16時09分
ジャニン・ザカリア(元ワシントン・ポスト紙エルサレム支局長)

本心は ネタニヤフは訪米中の演説でも空爆も辞さない姿勢を崩さなかったが(3月5日) Joshua Roberts-Reuters

 報道を見る限り、イスラエルがイランを空爆するのは時間の問題のように思える。現在話題に上っているのは、イスラエルがイランの地下核施設を破壊できる「バンカーバスター(地中貫通爆弾)」や爆撃機を保有しているかどうかだ。攻撃は数カ月以内に実行される可能性があるという、漠然とした観測も流布し始めた。

 今月初めにイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が訪米したとき、バラク・オバマ米大統領は外交交渉と経済制裁を継続すべきだと主張し、武力行使の自制を求めた。しかしネタニヤフは、訪米中に親イスラエル系の強力なロビー団体である「米・イスラエル広報委員会」で講演した際に、長くは待てないと述べている。

 イスラエルの前のめりの姿勢は今さら驚くべきものではない。この3年ほど、イスラエルは半年おきにイラン攻撃の一歩手前まで行ってはとどまってきた。

 09年5月にオバマとネタニヤフの会談が行われる前には、イスラエルがしびれを切らしていて、イラン核施設への攻撃を望んでいるという報道があった。同年9月には、ネタニヤフがイラン核問題で欧米諸国に与える時間的猶予は翌年夏もしくは秋までだという「イスラエル・ウオッチャー」たちの見方が報じられていた。

 アトランティック・マンスリー誌に「イスラエル、イラン空爆の構え」と題した特集が載ったのは10年9月。この記事によれば、10年末までに制裁が効果を発揮してイランの核計画が停止しなければ、イスラエルは空爆に踏み切るだろうとのことだった。

国民はイランに関心なし

 イスラエルに空爆を実行する用意があることは、ほぼ間違いない。しかし、ネタニヤフの発言ははったりの可能性が高い。強硬な発言がメディアで大々的に取り上げられれば、欧米諸国がイランにもっと強い措置を取り、あるいはイラン政府が怯えて国際社会の要求に応じるのではないかと期待しているのかもしれない。

 実際、イスラエルが直ちに空爆を開始すると判断すべき材料はあまりない(不意打ちを狙っている可能性は否定できないが)。

 昨年12月にイスラエルの国家会計検査官が発表した報告書によると、まだガスマスクを確保していない国民が何十万人もいるのに、政府は早期の入手を呼び掛けていない。避難用の地下シェルターの整備も進んでおらず、現状では一部の国民しか収容できない。

 国民の安全確保は、イスラエル政府にとって失敗が許されない課題だ。06年の第2次レバノン戦争の際、イスラム教シーア派武装組織ヒズボラのカチューシャ・ロケットがイスラエル北部に降り注いだ記憶はまだ生々しい。この戦争でイスラエルの経済は麻痺し、「格下」と見なしてきた敵の攻撃で深刻なダメージを被ったことにより激しい心理的な動揺に襲われた。

 もしイランと戦争になれば、イスラエルが被る打撃はこの比でない。イランはイスラエルを射程に収める中距離弾道ミサイルを持っている上、イランの影響下にあるヒズボラがレバノン南部に推定4万基のロケットを配備している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中