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イスラエル

イラン空爆論はただのはったり?

2012年4月19日(木)16時09分
ジャニン・ザカリア(元ワシントン・ポスト紙エルサレム支局長)

 ヒズボラの軍備は06年当時の4倍に増強されていると、イスラエル軍は考えている。この間にイスラエルのミサイル迎撃システムも進化したが、再び同様の経験を味わうことは避けたいはずだ。

 そもそも、イスラエル国民はイランの脅威をそれほど切実に感じていない。イランが核兵器を手にするのは早くても15年以降だと、10年までイスラエルの情報機関モサドの長官を務めていたメイル・ダガンは述べている。

 こうした見解を聞かされているイスラエル国民は、イラン攻撃を強く望んでもいない。最近の世論調査では、アメリカ政府の支持を得られなくてもイラン攻撃に踏み切るべきだと考えるイスラエル国民は19%にとどまった。

 イラン核問題は、目下イスラエル国民の最大の関心事ではない。国民はイランの核開発に怯える以上に、不動産の賃料とガソリン価格の高騰に怒っている。
「ジャーナリスト以外は、誰もイランのことなんて話題にしていない」と、エルサレムに住む友人は私宛ての最近の電子メールで書いている。「国民はそれより、テレビの新人歌手発掘番組と(イスラエル人スーパーモデルの)バル・ラファエリがプロデュースした最新ビキニに関心がある」

「恫喝」戦術の落とし穴

 確かに、時には国の政治指導者が世論をあえて無視して、国益のために必要だと信じる行動を取るときもあるだろう。それに、ネタニヤフがイランの核開発に心底懸念を抱いていることに疑いの余地はない。

 しかし、ネタニヤフも選挙で選ばれた政治家だ。オバマが今年11月のアメリカ大統領選を前にイラン空爆を行うことに消極的なのと同じように、ネタニヤフも来年に予定される議会選を意識せずにいられない。ほかの手だてがすべて失敗に終わらない限り、多数の死傷者を出しかねない軍事行動を取るとは考えにくい。

 実際、イランに対する軍事行動以外の選択肢はまだ尽きていない。アメリカは金融制裁を強化したばかりだし、EUの石油禁輸措置は7月から本格的に実施される。イラン人科学者の暗殺やイラン核施設へのサイバー攻撃などの秘密作戦ともども、経済制裁はイランの核開発を遅らせる効果を発揮してきたと、専門家は見ている。

 それに、空爆以外のさまざまな措置が遂行されていること自体、イスラエルがイラン攻撃に腰が引けている証拠でもある。

 訪米から帰国して間もない先週、ネタニヤフは地元テレビ局のインタビューで、「数日や数週間」以内に攻撃することはないと発言。ただし、「数年」待つつもりはないとも述べた。

 空爆に前向きな姿勢を頻繁に強い言葉で示さなければ、自国の主張が重みを持たないと、イスラエルの指導者たちは考えている。怖いのは、イスラエルが強硬な発言を繰り返しながらも攻撃に踏み切っていないため、脅しの本気度が部外者に分かりにくいことだ。

 その結果、イスラエルがついに本気で空爆の意思を固めても、イランは「はったり」と判断するかもしれない。逆に、イスラエルが本気でないときにイランが脅しを額面どおりに受け取れば......。そう、本来避けられたはずの戦争の引き金が引かれる恐れがある。

[2012年3月21日号掲載]

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