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ビルマ民族融和は本物か

政府がカレン族との和平交渉に動き出したのは、欧米に経済制裁を解いてもらうためのパフォーマンス?

2012年4月12日(木)16時10分
アレックス・エルジー

遠い夜明け ビルマ独立当初から分離独立を目指してきたカレン族の兵士 Sukree Sukplang-Reuters

 ビルマ(ミャンマー)のカレン州の州都パアンで開かれたカレン民族同盟(KNU)の記者会見場で、後方に立っていたカレン族の男性ソー・フラ・ウェイは政府の「善意」とやらをどうしても信じられなかった。

「幼い頃にビルマ軍から逃げ惑い、すべてを失った」と、ウェイは葉巻を消しながら言う。「これまでの経験を思えば、政府がついにカレン族との和平を望んでいるなど、どう信じろと言うのか」

 同様の感情は、タイとビルマの国境沿いに散らばるカレン族の難民キャンプや、KNUの拠点、そして世界中のカレン族の亡命者の間に広がっている。

 彼らの不安をよそに、KNUとその軍事組織であるカレン民族解放軍(KNLA)は、ビルマ政府との停戦交渉に入った。48年にイギリスの統治が終わって以来続く反政府闘争で、双方が多くの命を失った。今回の交渉が永続的な平和への第一歩になることを願う人も多いが、これまでに数々の試みが失敗したことを思えば疑念は拭えない。

 最初の交渉は1月中旬にパアンで行われた。KNUおよびKNLAと政府は、すべての戦闘行為を停止し、45日以内に再び会談することで合意した。

「民族問題に関する政府の対応は変化した」と、KNUの代表として交渉に臨んだデービッド・フトーは言う。「確信はないが、今回は長期的な停戦が実現すると期待している」

 和平交渉をめぐる現状を説明するために開かれた記者会見でKNUの指導部は、交渉は始まったばかりで道のりはまだ長いと語った。ジッポラ・セインKNU共同書記長によれば、停戦交渉は4段階で進める。「予備的」および「永続的」な停戦段階を経て、最終的に「政治参加」に至るという。

 ただし、停戦だけでは永続的な平和は実現できないと、セインは強調する。「私たちが求めているのは、軍事的な停戦だけではない。政治問題を解決する必要があり、その上で永続的な平和が実現する」

交渉を急ぎ過ぎている

 記者会見では、ビルマ軍が依然として戦闘地域に展開しており、前線の野営地への補給も続けていることに懸念が集まった。「彼らが今回の停戦を真剣に考えているなら、前線への補給はやめるべきだ」と、セインは答えた。「次回の交渉ではこの問題を整理したい」

 KNUの指導部内には交渉を急ぎ過ぎているという反発もあり、交渉のペースをめぐり亀裂が生じかねない。「政府と会って話をして、向こうの主張を聞いてこいと言ったのに、彼らは停戦合意に署名して帰ってきた」と、KNUのデービッド・タッカポー外相は言う。

 政府が停戦を望む主な理由は、民族組織と対話をする姿勢を示して国際社会に経済制裁を解いてもらい、カレン州の発展を促すためだろうと、タッカポーはみる。「発展をもたらせば和平が続くだろうと政府は考えている。しかし発展の前に和平を実現しなければ、和平は決して長続きしないし、少数民族は真の権利を手にできない」

 タッカポーは、政府がゲリラ組織のカチン独立軍(KIA)を攻撃している限り、KNUは和平交渉を始めるべきではないと語る。「カチンと戦っている相手が、民族組織と本気で和平を実現しようと思っているとは、とても信じられない」

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