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ビルマ民族融和は本物か

2012年4月12日(木)16時10分
アレックス・エルジー

 KIAはビルマ軍がカチン州を武力制圧したことに対抗して結成された組織だ。94年には民族組織の中でいち早く政府と停戦協定を結んだが、ビルマ軍の指揮下にある国境警備隊への編入を要求されたのを機に緊張が高まり、昨年6月に戦闘が再開された。

 自動車整備工として働くカレン族難民のソー・エイは、KNUは停戦交渉を急いで進め過ぎていると電話で語った。「いくつかの条件を明確に決めるまで、交渉に入るべきではない。カレン族にとってかなり重要な時期だ。慎重に進めて将来を見据えなければならない」

 KNUにカレン族の代表としてふさわしい政治的地位を与え、国の民主化のプロセスに参加させるという確約を政府から取り付けるべきだとも、ソー・エイは主張する。

 タイとの国境付近に点在する難民キャンプには、農地を手放し、山や川を越えて逃れてきた14万人以上のカレン族が暮らしている。彼らは口々に、ビルマ政府がカレン州に平和をもたらす手助けをするとは信じられない、と語る。

停戦合意後も続く弾圧

 サトゥン・エイ(41)はキャンプに来て20年以上。故郷に帰れる日が近いとはほとんど考えていない。「政府はKNLAと平和条約を結んだが、本心からではない。カレン族と駆け引きをしながら、経済制裁を解除してもらおうとしているだけだ」。ビルマ政府は難民に故郷へ戻るよう促すが、「戻れる安全な場所を彼らが確保しようとする動きは、今のところない」。

 難民キャンプを支援するNGO「タイ・ビルマ国境協会」のサリー・トンプソンによると、ここ10年の武力衝突はカレン族に破滅的な影響を与えているという。「長引く戦闘でビルマ南東部の軍事化が進んだ。反政府勢力の鎮圧は、さまざまな組織的手法で市民を標的にしてきた。無差別な砲撃や地雷で直接的に命を脅かすこともあれば、強制労働や行動の制限、強奪などで間接的に生活を脅かすこともあった」

 昨年に民政移管を果たしたビルマの政治改革が進めば、難民キャンプは5年以内に閉鎖される可能性もあるが、「停戦は平和の構築と国家的な和解というプロセスの始まりにすぎない」と、トンプソンは語る。

「政治的な対話が必要だ。60年に及ぶ武力闘争の末に信頼関係を築くのだから、先は長い。政府は従来の戦闘地域の人々の生活を大幅に改善して、誠意を示さなければならない」

 ビルマ国内で住む所を追われた人々を支援する医療NGO「フリー・ビルマ・レンジャーズ」によると、停戦合意後も市民への弾圧は続いている。

 例えば1月末、軽歩兵大隊が地元の村人に、トレーラー12台分の食糧を前線まで運ぶように命令した。村1つにつきコメ30袋を運んだが、すべて無償だった。停戦合意後もビルマ兵の攻撃で村人が負傷し、戦闘は散発的に続いている。

 KNUは、長年続くこのような人権侵害を終わらせたいと願っている。停戦交渉は始まったばかりで道のりは遠いが、国のために交渉を始めようという意思は双方にあるようだ。

「政府を信頼できなくても、私たちには平和を手にする権利があり、私たちの指導者はこの苦しみを終わらせるために最善を尽くすと信じている」。ソー・フラ・ウェイはカレンの山並みを見やりながら言った。

From the-diplomat.com

[2012年3月21日号掲載]

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