最新記事

トルコ

改革派エルドアンはプーチン並みの強権主義者

2012年4月3日(火)15時06分
オーエン・マシューズ(イスタンブール)

 果たしてジャーナリストや学者、メディアを攻撃しているのは正義を振りかざす検察当局なのか、あるいは政敵を排除したいエルドアンなのか。いずれにせよ、エルドアンが一連の逮捕を支持しているという事実からは、彼が強権的な手法を黙認しており、トルコの民主主義がその犠牲になっていることが透けて見える。
検察官を制御できない

 「私たちは日に日に法の支配から遠ざかっている」と、トルコ産業連盟の会長であるユミット・ボイナーは言う。EUの欧州委員会で加盟国拡大・欧州近隣国対策を担当するシュテファン・フィーレ委員も、トルコで「ジャーナリストや作家、学者や人権活動家に対する訴訟や捜査が多い」ことに深刻な懸念を表明している。

 政権に就いてから10年。与党・公正発展党(AKP)の指導部は、支離滅裂どころか被害妄想にさえ陥っている。

 だが無理はないのかもしれない。何度も選挙で勝利しながらも、AKPはこの10年ほぼ絶え間なく、「国家の中の国家」と呼ばれる人々──世俗国家の番人を自任する裁判官や軍人たち──から攻撃を受け続けてきた。現実に軍の一部が、暗殺や爆弾テロ、デマなどによって政府の不安定化をもくろんできた証拠もある。

 今やエルドアンのトルコは、強権的な軍政下にあった80年代に逆戻りしつつある。

 革命の立役者が、いつの間にか旧体制と同じ独裁者に変身してしまう。そういう権力の誘惑は常にある。投獄されたあるジャーナリストは、イスタンブールの法廷でこう述べたものだ。「旧体制を転覆した勢力にも、必ず旧体制の残した悪い種が引き継がれている。これは歴史の証明するところだ」

 クルド系住民との和解協議を妨害されたことを受けて、エルドアンはいずれ、これまで自分にとって有利に動いてくれていた検察官たちがもはや制御不能であることに気付くだろう。それでも彼らを罷免したりすれば、政府による司法への介入だという批判が起こることは避けられない。

 しかしトルコの司法制度が破綻しており、それがエルドアンの標榜する「先進的な民主国家」を実現する上で深刻な障害となっているのも事実だ。

 反対派を投獄すればするほど、批判の声は高まるもの。似た者同士のプーチンともども、エルドアンにはこの事実に気付いてほしい。

[2012年3月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米長官、ハンガリーとの関係「黄金時代」 オルバン首

ビジネス

独VW、28年末までにコスト20%削減を計画=独誌

ワールド

英首相、国防費増額の加速必要 3%目標前倒し検討と

ワールド

ロシア、和平協議で領土問題含む主要議題協議へ=大統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したスーツドレスの「開放的すぎる」着こなしとは?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 9
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 10
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中