最新記事

ヨーロッパ

寛容の国オランダもブルカ禁止へ王手

かつてヨーロッパ有数の「リベラルな国」として知られたオランダが、ブルカ禁止法の成立に向け動き始めた理由

2012年1月30日(月)17時17分
デービッド・トリフノフ

包囲網 ブルカ禁止の動きはヨーロッパ全体に広がり、既にフランスやベルギーでは禁止法が施行されている Jean-Paul Pelissier-Reuters

 オランダの連立政権は先週、イスラム教徒の女性が顔や全身を覆う「ブルカ」や「ニカブ」の着用を禁止する法案を来年までに可決すると宣言した。今週にもブルカ禁止法案が議会に提出され、その後は上下院で審議される予定だ。

 連立政権に参加する中道右派のキリスト教民主勢力(CDA)いわく、宗教的な理由でブルカの着用を禁じようとしているわけではないという。法案が適応される対象にはブルカやニカブだけでなく、バラクラバ帽(防寒用の目出し帽)やスキー用のマスク、ヘルメットなど不必要に顔を覆い隠すものも含まれる。

 着用禁止の理由として、内務省は「誰かに会った際に互いの顔を確認できないと困るから」と説明している。

 しかし、それだけが理由なのか。連立政権には、反イスラム色を鮮明に打ち出し急成長を遂げる極右政党、自由党も加わっている。同党の悪名高いヘールト・ウィルダース党首は、ツイッターで喜びをぶちまけた。「素晴らしいニュースだ。オランダでもやっとブルカ禁止法ができる! この提案が閣議で承認された、最高だ!」

 ウィルダースはこれまでもイスラムに対して憎悪に満ちた発言を繰り返してきた。最近では、自国のベアトリックス女王が湾岸諸国を公式訪問した際に、スカーフをかぶったことまで批判。「政府が止めるべきだった」と主張している。

「ブルカ禁止は男女平等に貢献する」

 オランダの今回の法案は、ヨーロッパで盛り上がりをみせるブルカ排斥の動きの一環だ。フランスでは既に昨年4月、ベルギーでは昨年7月にブルカ禁止法が施行され、イタリアでも同様の動きが進んでいる。昨年9月には、フランス・パリ東部の町モーの裁判所が初めてブルカ禁止法に違反した罪で、女性2人に罰金を言い渡した。

「(禁止法は)個人の自由や思想の自由、信仰の実践や宗教的な表現の自由を侵害している。そんな法律に従うつもりは毛頭ない」と罰金を科された女性の一人、ハインド・アハマスは英テレグラフ紙に語った。

 オランダの法案が施行された場合、法律に違反した国民には最高390ユーロ(510ドル)の罰金が課される。しかし、実際に払う羽目になる人はごく少数だろう。オランダの人口およそ1670万人のうち、イスラム教徒は約100万人。その中でも、ブルカやニカブを着用する女性は数百人程度とみられている。

 それでもなお、ブルカ禁止法案を推進しようとする動きには愕然としたと、イスラム女性の権利擁護団体「アル・ニサ」のレイラ・カキル代表は言う。「女性から自己決定の権利を奪う行為だ。こうした動きの背後にあるのは恐怖心だ」と、彼女はAP通信に語った。

 しかしオランダ政府は逆に、ブルカやニカブの着用は男女の平等に逆行する行為と見なしているらしい。「この法案を通じて、政府は社会に参画している女性の障害を取り払おうとしている」としている。 

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

コムキャスト、ワーナー・ブラザースの事業買収検討 

ビジネス

日経平均は反落、AI関連中心に下押し 物色に広がり

ビジネス

ホンダ、通期予想を下方修正 四輪中国販売減と半導体

ビジネス

GPIF、7―9月期運用益は14.4兆円 株高で黒
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中