最新記事

治安

インド、お粗末テロ対策の大きなツケ

首都ニューデリーで11人が死亡した爆弾テロなど相次ぐテロを止めるには、パキスタン国内の訓練基地を叩くしかない

2011年10月18日(火)14時46分
スディプ・マズムダル(ニューデリー)

政治不信も ニューデリーの高等裁判所付近で現場の封鎖に当たる警察 Parivartan Sharma-Reuters

 先週、またインドで惨劇が繰り返された。各地でテロが相次ぐ事態には終わりが見えない。今回を含め、首都ニューデリーで過去15年間に19件も大規模なテロが発生したが、犯人が逮捕されたのは2件だけだ。

 過去の多くのケースと同様、今回のテロも未然に防げたはずだ。現場の高等裁判所前は議事堂から2キロほどで、近くに官庁が立ち並ぶ警備が厳重な一帯だ。

 しかも、ここでは今年5月にも爆発があり、負傷者は出なかったものの大規模テロの予行演習とみられていた。だが監視カメラは設置されず、金属探知機による検問も不十分だった。警察は今回のテロの容疑者2人の似顔絵を公開したが、治安当局はどの組織による犯行か不明としている。

 爆発後、市民の怒りの矛先が向かったのはテロ犯だけではなかった。政治家は被害者が運び込まれた病院に入れたのに、被害者の家族は入れてもらえないという理不尽な仕打ちを受けた。そのため数百人の市民が複数の病院を囲んで抗議の声を上げた。

「(政治家は)テロとの戦いに本腰を入れようとしない」と言うのは、現場で負傷者の救出を手伝ったタクシー運転手ラジェシュ・シン。「庶民と違って、権力者は身の危険を感じずに済む......警護の一団に囲まれて移動し、警備の厳重な家に住んでいるんだから」

 テロ対策が不十分な背景には、政府の方針が一本化されていないという事情もある。

 治安当局の一部には強硬論が根強い。国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンを殺した米政府のやり方を見習って、パキスタン政府の許可なしに同国内のテロリスト訓練基地をたたくべきだというのだ。しかし外交官僚はテロを封じ込めるには、パキスタンとの協力が不可欠だと主張し続けている。

 いずれにせよ、専門家がこぞって指摘するのは治安当局のインテリジェンス能力が低いこと。全人口12億に対し連邦政府の情報要員は6000人足らず。宗教対立や分離主義の動きも監視する必要があり、テロ組織の動向を十分に把握できていない。

 今回の事件を受けてインドのシン首相は、テロとの戦いは「長期戦になる」と語った。「国民全員が団結して立ち向かわなければならない」

 今回のテロ、さらには過去のテロの犯人が野放しになっている限り、シンの言葉を心から受け入れる国民は少なそうだ。

[2011年9月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中