最新記事

軍事

「タカ派」国家に転じたフランスの思惑

チュニジアとエジプトの革命は傍観していたサルコジが、一転してリビアとコートジボワールへの軍事行動に率先して乗り出したのはなぜか

2011年4月14日(木)16時58分
ミルドレッド・シャーフィルズ

世界の警察? コートジボワールのバグボ元大統領の支持勢力を攻撃するフランス軍(4月11日) Luc Gnago-Reuters

 この数カ月の間にアラブ諸国で変革の波が広がるなか、欧州でもある変化が起きている。フランスが軍事的に強硬な姿勢を強めているのだ。

 フランスと言えば、03年に米政界のタカ派に嘲笑されながらもイラク戦争に反対した国。なのに今では多国籍軍や国連平和維持活動(PKO)部隊と共に、リビアとコートジボワールに対する軍事行動を率先して進めている。

 コートジボワールでは先週、11月の大統領選で敗北した後も大統領職に居座っていたローラン・バグボが、フランス軍によるヘリ攻撃の最中に拘束された。4月12日にはアラン・ジュペ仏外相が、リビアの反政府軍を守るためにNATO(北大西洋条約機構)はさらなる空爆を行うべきだと訴えた。

 今年初めに比べると大変な変わりようだ。チュニジアとエジプトで革命が起きた頃には、フランスは傍観者を決め込んでいた。

「フランスは弱々しい負け犬だという見方は、誇張されているし間違っている」と、米誌ワールド・ポリティクス・レビューのジュダ・グランスタイン編集長は言う。「サルコジは、フランスが果たす世界のリーダー的役割に限界があるなどというアメリカの見方には同調しない」

コートジボワール空爆は資源が目当て?

 サルコジは07年に大統領に就任して以来、世界におけるフランスの存在感を保つために力を注いできた。フランスの国防戦略を見直すよう命じ、09年にはシャルル・ドゴール元大統領が66年に脱退したNATOの軍司令部に復帰することを決めた。

 サルコジはフランスが指導力を発揮できるチャンスを見つけると、積極的に手を出してきた。オバマ米大統領がリビアへの軍事介入をためらった時も、まさに絶好のチャンスだった。

 グランスタインによると、イラク戦争をめぐって仏米関係がぎくしゃくするなか、NATO軍司令部に復帰することでサルコジはアメリカとの友好関係を改めることができた。リビアやコートジボワールへの軍事介入を果たすことができたのも、軍司令部復帰によって軍事的な影響力が強まったからだ。

 国連との協力の下、フランスがコートジボワールで行った空爆がバグボの拘束につながったことについては、「ある時点で誰かがやらなければならなかった」とグルスタインは語る。「サルコジには政治的な影響力をかぎつける鼻がある。彼は世界にリーダーの存在が欠けていた時にそれを埋めてみせた」

 バグボ拘束によって、行き詰っていたコートジボワールの騒乱は終局を迎えた。しかしパリを拠点に活動するバグボの支持者で広報担当者のアラン・トゥーサンは、フランスがやったことは本質的にはクーデターだと批判する。西アフリカ諸国の資源を手に入れるためにバグボを追放し、アラサン・ワタラ元首相を大統領職に就けたというのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

クックFRB理事の解任認めず、米控訴裁が地裁判断支

ワールド

スウェーデン防衛費、対GDP比2.8%に拡大へ 2

ワールド

WHO、成人の肥満治療にGLP-1減量薬を初めて推

ワールド

米長官、イランのウラン濃縮計画「完全解体を」 IA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中