最新記事

中国社会

中国が乗り出す里帰り義務化の裏事情

高齢の親と離れて暮らす子供に対し、もっと親の面倒を見るよう法律で定めようとする動きが浮上。「一人っ子」世代の間で親孝行の定義が変わりつつあることも背景に

2011年4月11日(月)13時21分
ジャスティン・カルデロン

親孝行しなきゃ 今年も春節には大勢の人が里帰りした(江西省の南昌から内モンゴル自治区の包頭へ向かう列車) Jason Lee-Reuters

 久しぶりの里帰りで女子学生が家族と涙の再会を果たす。「会いたかった」と母親を抱き締め、父親にほほ笑み掛ける。「さあ、おじいちゃんとおばあちゃんに会いに行こう」──。

 これは今年2月の春節を前に、中国政府が制作したキャンペーン映像。「地方の両親に会いに帰ろう」と呼び掛けるもので、1月に上海の地下鉄の車内モニターで繰り返し流された。もはや里帰りも若者の道義心だけに任せてはいられないようだ。

 急速な高齢化が進む中国では、高齢の親と離れて暮らす子供に対し、もっと親の面倒を見るよう法律で定めようとする動きも出てきた。現在検討されている高齢者権益保障法の改正案では、高齢の親と別居する子供に「頻繁」な訪問を義務付けようとしている(ただし「頻繁」の定義はまだ定まっていない)。

 さらに、親の医療費や介護費用の負担も求める見通しだ。膨張する医療費の抑制が狙いとみられる。「一人っ子」世代の多くは都市に移住し、故郷に取り残された高齢者が医療制度を圧迫している。

ボロボロになったセーフティーネット

 古来、中国では年老いた親の世話は子供の務めだったが、社会構造の変化によってそうも言っていられなくなってきた。現在、総人口約13億人のうち65歳以上はおよそ1億5500万人だが、20年には2億6000万人近くに達する見通しだ。

 今回の改正案は「経済や社会の変化でセーフティーネットがボロボロになった現状を反映している」と、中国関連の法律業務に長年携わる弁護士のエイミー・ソマーズは語る。

 とはいえ、子供たちの現実は厳しい。コアン・リン(25)は3年前に黒龍江省ハルビン市を出て、上海で働いている。貿易展示会の仕事が忙しいため、春節に1週間ほど里帰りするのが精いっぱいだ。「帰省ばかりしていたら絶対に成功できない」

 そもそも「一人っ子政策」などの法律が社会的な矛盾を生み出してきた。それをまた法律で解決しようとすることの是非をめぐり、中国内外のネット上では議論が沸き起こっている。

 浙江工業大学の王平(ワン・ビン)教授は、伝統的な精神が失われたわけではないが、「親孝行を金銭でとらえる若者が増えてきた」と指摘する。「祝日に実家を訪ね、親に小遣いや土産を渡せば義務を果たしたと思っている」

 法改正されたら、コアンは義務を果たすつもりだ。それで社会の調和が保たれれば「みんなが幸せになれる」からだ。

GlobalPost.com特約

[2011年3月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、年内0.5%追加利下げ見込む 幅広い意見相

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、利下げ再開 雇用弱含みで年内の追加緩和示唆

ビジネス

FRB独立性侵害なら「深刻な影響」、独連銀総裁が警
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中