最新記事

日本社会

悲劇を増幅させた同質社会と官僚体質【前編】

原発事故へのお役所対応を生んだ官僚システムと、従順すぎる世論にメスを入れるチャンスだ

2011年3月22日(火)17時24分
クライド・V・プレストウィッツ(米経済戦略研究所所長)

極限状態 すべてを失っても忍耐と礼節の精神を保ち続ける日本人(岩手県大槌町、3月21日) Aly Song-Reuters

 東京からアメリカに帰国したばかりの立場として、さらに日本のメディア報道をフォローし、日本にいる多くの友人や情報源から話を聞いた立場として、私は日本を襲った今回の危機が、この国の素晴らしさと欠点の両面を映し出していると断言できる。

 問題は、日本がこの危機をうまく利用して、強みを維持しつつ、システムを再構築できるかどうかだ。

 言葉を失うほどの悲劇に襲われても、日本人と日本社会が忍耐と勇気、譲り合いと礼節の精神を失わない点は見事だ。世界各地の多くの危機と違って、略奪も暴動も小競り合いも起きなかった。人々はわずかな食料や物資をすすんで分け合い、長い列を作り、信号が消えた道路や突然の停電、時間厳守が当然だった鉄道や地下鉄、バスの不規則な運行状況に冷静に対処している。

 これは、極端に同質性を重んじ、社会的摩擦を避けてきた日本社会の長い歴史の産物だ。

 一方で、福島原子力発電所のメルトダウンと放射能拡散のリスクに対する関係当局の対応は、非常に鈍いようにみえる。同時に、国民に開示される情報から判断するかぎり、日本政府と東京電力が現状とその処方箋を把握できていないか、あるいは把握していても情報を隠しているという印象を受ける。

徹底的な情報開示を求めない国民性

 私が驚いたのは、より多くの、より重要な情報の提供を求める世論の圧力がさほど強くないことだ。もちろん、メディアの間には不満と情報開示を求める声が渦巻いているが、少なくとも他の民主国家と比べれば、本格的な世論の盛り上がりと政治的な圧力は控えめにみえる。

 これもまた、同質社会の産物だ。日本では、最悪の事態が避けられない状態になるまで、部下が上司に事態の悪化を報告したがらないほど、摩擦を避ける傾向が強い。

 もっとも、政府と東京電力の対応を理解するうえさらに重要なのは、政治構造の基盤となっている「天下り」システムだ。

 日本では昔から、東京大学法学部を経て高級官僚になることがキャリアの頂点とされてきた。最近はその傾向も変わりつつあるかもしれないが、今回の危機にトップレベルで関与している官僚の多くは、そうした旧世代の人々だ。

 まず第一に理解すべきは、本当の意味で日本を動かしているのは今も、国民に選ばれた政治家ではなく官僚だということ。国会議員は秘書の数も使える予算も少なく、強力な官僚機構を調査・監督する権限もほとんど与えられていない。官僚は日本を守るのは自分たちだと自負し、政治家を見下してきた。

 2つ目に重要なのは、東京電力の監督省庁が、戦後の奇跡的な経済復興を牽引してきた経済産業省(当時の通商産業省)だという点だ。

 3つ目に、日本の官僚は普通50〜55歳で退職する。公僕としての彼らの給料は決して高くない。だが各省庁は多大な労力を費やして、彼らのために管轄下の企業や業界団体に快適な天下り先を探し出す。

 東京電力にも元官僚がたくさん天下っている。政治家や国民を無視することに慣れ、また質問に答えるより命令を下すことに慣れた人々だ。

後編に続く


Reprinted with permission from The Clyde Prestowitz blog, 22/03/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、パレスチナ国家の一方的承認に否定的 直接交渉を

ワールド

指名争い撤退のヘイリー氏、トランプ氏に投票と表明

ビジネス

FRB、ディスインフレ確信も「予想より時間かかる」

ワールド

英総選挙、7月4日に実施 スナク首相が表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 5

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 6

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決し…

  • 9

    「テヘランの虐殺者」ライシ大統領の死を祝い、命を…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中