最新記事

教育

中国式スパルタ育児は経済をダメにする

アメリカでは実践本が話題だが、当の中国では詰め込み教育による使えない大卒の量産が問題になっている

2011年3月4日(金)14時53分
メリンダ・リウ(北京支局長)

やり過ぎ? 家の中でも外でも「独裁教育」では、ビル・ゲイツは生まれない(北京の幼稚園) Jason Lee-Reuters

 エール大学のエイミー・チュア教授が、スパルタ的とも言える自らの「中国式育児」について書いた『戦う母トラへの賛歌』が発売されるや、その是非をめぐりアメリカでは議論が沸騰。中国にも議論は飛び火しているが、本場の「中国人の母」たちの反応は意外なものだ。

 北京に住む公務員の女性(39)には8歳の双子の息子がいる。「私はチュアみたいにはならない」と彼女は言う。「圧力はかけたくない。2人には自分で選んだ趣味を持ってほしいし、自分で能力を伸ばしていってほしい。子供の代わりに私が判断を下そうとは思わない」

 2人の息子は絵を描くことや囲碁が大好き。彼女も2人の「好き」という気持ちは本物だと思っている。本人たちがやりたいと言って始めたことだからだ。

 意外なのはそれだけではない。息子たちは私立のインターナショナルスクールに通い、比較的のんびりした雰囲気の中で英語と中国語の両方を学んでいる。それは彼女が旧来型の中国式教育法では不十分だと感じ、「中国式と欧米式の両方を取り入れようと努めている」からだ。

 何時間もピアノを練習させたり、たくさんの禁止事項を設けたり──チュアの言う厳しい中国式子育ては、確かに中国国内ではなじみ深いものだ。最近インターネット上で行われた調査によれば、中国のネットユーザーの過半数が「小さい頃から何かにつけて母親から『おまえはみんなより劣っている』と言われてきた」と答えている。

 昨年12月にOECD(経済協力開発機構)が発表した国際学習到達度調査(PISA)では、対象となった65カ国・地域のうち、上海が読解力、数学、科学の全3分野で1位となった。それに続いて韓国、香港、シンガポールも上位になり、ニューヨーク・タイムズ紙は儒教の大勝利だと書いた。「中国などのアジア諸国で教育がうまくいっているのは教育が最重要課題とされているからだ。ここから学ぶべき点は多い」

使い物にならない優等生

 だが「中国式」で成績のいい子が育つとしても、そうした優等生たちが本当に想像力に富んだ人材となり、活発な経済やより良い社会をもたらすことができるのか? 中国の現状に限って言えば、答えはノーだ。

 中国では今、学歴に見合った職を見つけられない大卒者の大量発生が大きな問題となっている。中国の高等教育は高給取りになる夢だけは一人前、でもまるで使い物にならない卒業生を量産している。中国に進出した多国籍企業の関係者に言わせれば、オフィスで働くということがまるで分かっていない新卒者も多い。

 中国では10〜20年前と比べて高等教育(特に教員)の質が落ちたと言われている。「昔のようにいい先生がいないのが残念」と、高校生の娘を持つ40代の女性は言う。彼女はさらに嘆く。「勉強への重圧がひどい。休日もなし。日曜に半日休めればいいところよ。宿題が多過ぎて子供たちが燃え尽きてしまいそう」。この悩みは中国人の母たちに共通するものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7、イスラエル支持を表明 「イランは不安定要因」

ワールド

日韓首脳、17日にカナダで会談へ=韓国大統領府

ビジネス

日銀、金融政策を現状維持 国債買い入れ減額来年4月

ビジネス

EVへの乗り換え意欲、欧州で米国より低下=英シェル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 9
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中