最新記事

国際政治

独裁者の代理人がうごめく

独裁国家のロビイストが近年ワシントンで急増し、民主主義国の場合とは異なる問題が起きている

2010年8月31日(火)12時40分
ジョシュア・カーランジック(米外交評議会研究員)

 もはや、ごく一部の人間が業界の片隅で活動するだけの地味な世界と片付けるわけにはいかなくなった。外国政府の依頼を受けて行うロビー活動は、ワシントンの有力ロビー会社にとって大きなビジネスに成長した。

 米司法省の最新の統計によると、外国政府との契約を当局に報告しているロビイストの数は、09年前半の時点で1900人。人権擁護団体によれば、抑圧的な国の政府がアメリカでロビー活動を行うために支払う金額は急増しているという。そうした国の中には、人権侵害を理由に米政府の制裁対象になっている国も含まれる。
 
 司法省によれば、コンゴ共和国は09年上半期だけでロビー会社やPR会社などに150万ドルを支払った。世界有数の汚職国家であるアンゴラの政府が支払った金額は300万ドルを上回る。

 30年以上政権に居座り続けている赤道ギニアの残忍な独裁者オビアン・ヌゲマは、年間総額100万ドルの報酬で、ビル・クリントン元米大統領の側近だったラニー・デービスが経営する法律事務所にロビー活動を依頼した(人権問題でヌゲマの姿勢が改善しなければ、実際の業務は開始しないと、デービスは主張している)。
「(アメリカの)政策決定を傍観するのではなく、その過程に影響力を及ぼすほうが得策だと、独裁国家の指導者たちが気付き始めた」のだと、人権擁護団体フリーダム・ハウスのクリス・ウォーカーは分析する。

 昔は、「極悪」な国家がワシントンで大々的なロビー活動を行うことは珍しかった。第二次大戦前にナチス・ドイツの依頼を受けたロビイストがいたせいで、何十年も後まで「外国のために働くロビイスト」には負のイメージが付いて回った。日本やイギリスなどの同盟国の依頼を受けるロビイストがいても、評判の悪い独裁者の依頼を受けるのは一部のエキセントリックな人物に限られていた。

 一方、中国など多くの途上国は、ワシントンでどのようにロビー活動を行えばいいか見当がつかずにいた。

 転機が訪れたのは05年。中国の国有企業である中国海洋石油総公司(CNOOC)がアメリカの石油会社ユノカルを買収しようとしたが、米議会の反対で断念に追い込まれたのだ。この手痛い経験をきっかけに、中国政府はワシントンでのロビー活動を強化し始めた。

大統領候補の陣営も侵食

 今では、クーデターなどにより新たに誕生したばかりの政権も直ちにワシントンにロビイストを確保するようになった。09年夏に軍事クーデターで政権を奪取してたちまちオバマ米政権に非難されたホンジュラスの暫定政権は、早速アメリカの有力ロビー会社を雇った。そのためにつぎ込んだ金額は、40万ドルを下らない。

 アメリカの法律では、ロビイストが外国の政府と契約を結んだ際は例外なく公表することが義務付けられている。しかし現実には、その開示情報で分かることには限りがあるし、そもそも報告を行わないロビイストもいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米東部4州の知事、洋上風力発電事業停止の撤回求める

ワールド

24年の羽田衝突事故、運輸安全委が異例の2回目経過

ビジネス

エヌビディア、新興AI半導体が技術供与 推論分野強

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏勝
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中