最新記事

イタリア

ベルルスコーニは退場せよ

2009年12月16日(水)14時49分
クリストファー・ディッキー(パリ支局長)

公教育のレベルは国辱的

 イタリア人の平均年齢は欧州で最も高く、世界でも日本に次いで2位。労働力の供給源である移民は搾取され、忌み嫌われている。年金は国家の財政を食いつぶす勢いだ。商業インフラも老朽化し、経済成長の機会を奪っている。

 90年代の初めまでのイタリアは、欧州で最も成長率が高い国の1つだった。だが、その後はずっと劣等国。IMF(国際通貨基金)は、イタリアの今年の実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス5・1%になると予想する。ユーロ圏全体の成長見通しをはるかに下回る数字だ。

 公教育のレベルは国辱的。OECD(経済協力開発機構)が9月に発表した報告書によると、加盟30カ国中、仕事にも就かず教育訓練も受けていない若者の比率はメキシコとトルコに次いで高い。経済発展には法治が不可欠だが、イタリアではいまだにマフィアが大企業で、推定で年1300億鍄の売り上げを挙げている。

 ベルルスコーニの失政の跡は至る所にある。教育改革はコストを削減しただけに終わった。社会保障改革に至っては、ほとんど何もしていない。08年の総選挙では減税を公約したにもかかわらず、イタリア政府の試算では今年は増税になる。

 自身の2度目の政権を率いていた06年には、配下の警察はシチリア最後の大物マフィア、ベルナルド・プロベンツァーノの逮捕に貢献した。だが、シチリアの検察当局は現在もたびたびベルルスコーニとマフィアの関係を暴こうとしている。首相は起訴こそ免れているものの、マフィアと戦う正義のイメージは失ってしまった。

 ベルルスコーニの傍若無人な振る舞いと醜聞は、国際的なひんしゅくを買っただけでなく、実際にイタリアの国益を損なっている。

 昨年秋、バラク・オバマがアフリカ系アメリカ人として初めてアメリカ大統領に選ばれると、オバマは「日焼け」していると発言して物議を醸した。そして先月、ピッツバーグで開かれた主要20カ国(G20)金融サミット(首脳会議)から帰国した後にも、また同じ「ジョーク」を持ち出した。

国際舞台で進むイタリア外し

 アメリカからよろしくと言われたと、ベルルスコーニは保守派の支持者に語った。「名前は何だったかな。あの日焼けした男だよ。ああ、バラク・オバマか」と彼が言うと、居心地の悪そうな笑い声が上がった。「信じられないだろうが、夫婦で海水浴に行ったらしい。夫人も日焼けをしていたよ」

 ベルルスコーニの長年の側近、フランコ・フラティニ外相は、即座にボスを弁護した。「イタリアはスキャンダルによってではなく、長所と実績によって評価されるべきだ」と、彼は言う。

 だが、スキャンダルのおかげでフラティニの仕事は苦労の連続だ。「真実を説明するために時間を割かなければならない」と、彼は言う。「新聞の1面を見ればスキャンダルの見出しばかりだ。だが、4面か5面まで見れば、レバノン問題で世界がいかにイタリアを必要としているかが分かる。アメリカが、アフガニスタンでのイタリアの貢献にどれほど感謝しているかも。だがよく言うように、良いニュースはニュースにならない」

 そんなに単純な話なら苦労はしない。イタリアは今も世界第7位の経済規模を持ち、NATO(北大西洋条約機構)やG20、ユーロなど、大国が集まる国際クラブのほとんどに参加している。だが、その地位にふさわしい仕事はしていない。ベルルスコーニの際どい冗談と悪評は、外国の指導者を不愉快にさせており、イタリアがしばしばのけ者にされる原因になっている。イランと核問題を協議する主要国グループ(国連安全保障理事会の常任理事国5カ国とドイツ)にも入れてもらえなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反発、一時5万1000円回復 AI

ワールド

豪貿易黒字、9月は25.6億米ドルに拡大 金輸出が

ワールド

アングル:米民主、重要選挙「全勝」で党勢回復に弾み

ワールド

マクロスコープ:高市「会議」にリフレ派続々、財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中