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イタリア

ベルルスコーニは退場せよ

2009年12月16日(水)14時49分
クリストファー・ディッキー(パリ支局長)

 またベルルスコーニは、他人の手柄をわが事のように自慢する。ニコラ・サルコジ仏大統領は08年夏、ロシアとグルジアの停戦調停のため訪ロしたが、それも自分が派遣したのだと言う。イタリア軍はイラクとアフガニスタンの戦争に参加し、悲劇的な犠牲を支払ったとも言う。だが、イタリア軍はとうにイラクから撤退しているし、アフガニスタンからも一刻も早く脱出したがっている。

 常に実質より見た目を重んじるベルルスコーニは、法的手段や捜査権や政治的圧力を総動員して都合の悪いニュースがイタリア人の目に触れないよう努力してきた。10月3日にローマで約10万人の市民が報道の自由を求めて行った集会も、テレビではほとんど取り上げられなかった。

能力のある国が台無しに

 それも当然。ベルルスコーニは国営テレビ3局のすべてと3大民放局を支配している。ほかにイタリア最大の出版社やニュース週刊誌、大手新聞も所有するか影響下にある。国営テレビ局が政府に批判的な放送を流すたびに国営メディアの務めは政府を支持することだと言い、政府を批判したジャーナリストを解雇させることもある。ベルルスコーニの支配下にないメディア相手には、しょっちゅう訴訟を起こしている。

 悲劇的なのは、イタリアは本来、素晴らしい知性や芸術家、有能な公務員と創造力に富む経営者に恵まれた国だということだ。

 今、ベルルスコーニの後継者として名前の挙がっている人物には、フィアット会長のルカ・コルデロ・ディ・モンテツェモロ、ファシスト党の流れをくむイタリア社会運動から穏健派に転じたジャンフランコ・フィーニ下院議長、外相のフラティニ、ジュリオ・トレモンティ経済・財務相、中央銀行であるイタリア銀行のマリオ・ドラギ総裁などがいる。

 だが、政治的な告発や捜査、左派の内紛、右派の人種攻撃、さらに政敵を蹴落として中道右派の地盤を独り占めするベルルスコーニの習慣が何年も続いたせいで、イタリアを良くできる能力を持った生き残りは数少ない。

 最終的な責任は、イタリア国民にあると言えるかもしれない。作家のウンベルト・エーコは先月、イタリア国民はベルルスコーニを受け入れてきた、報道規制も受け入れるだろうと書いた。「それでもなお、私が批判を書くのはなぜか。ベルルスコーニに支配されたメディアが何も報じないせいで、ほとんどのイタリア人は何も知らないというのに」と、彼は問う。

「答えは簡単だ。1931年、ムソリーニのファシスト政権は、1200人の大学教授に忠誠を誓わせた。拒否したのは12人だけで、彼らは職を失った。その12人こそが、大学と国の名誉を救ってくれたのだ。だからこそ、それが無駄と思えるときでもノーと言うことは必要だ」

 イタリア人は再度、ノーと言うべきだ。そしてベルルスコーニよ、あなたはもう去るべきだ。

[2009年10月12日号掲載]

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