最新記事

教育

多言語を話す子供は2倍速く学習することが判明! 「成長を遅延させる説」は覆る

2018年6月19日(火)16時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

dokusyo-multi-180619.jpg
Wavebreakmedia-iStock

多言語の知識を持つ生徒は脳機能も発達

今回の研究でトムソンらは、マルチリンガルの生徒たちをELLのサブグループとして区分けして調査を進めた。マルチリンガルの生徒のすみ分けを確立させたことで、細分化されたデータが明らかになり、彼らが十分に英語を使いこなせるのにELLと同じグループに分類されていたという問題が浮き彫りになった。

一口にELL と言っても、第一言語と同程度に英語を操れる人と、英語は勉強中で、リスニング、スピーキング、リーディング、ライティングにおいて十分に習得できていない人たちのグループがいっしょくたにされていた。

トムソンらは現在英語を学んでいる者と、以前そのカテゴリーに属していたが今は十分に英語を習得した者との差を「埋まることのないギャップ」と呼ぶ。つまり、彼らが上達していく際に身につける学力は認知されていないのだ。

実は脳科学の研究においても、複数言語を操る人は、習得のアドバンテージを身につけ学力向上に役立てていることが分かっている。これまで主流であった、相反する2つの言語は子供の成長を遅延させるという極端な理論は、どうやら真逆であるようだ。

【参考記事】音楽家やバイリンガルは脳を効率よく使うことが明らかに

英デイリーメールによると、マルチリンガルの人は脳の下頭頂小葉にある灰白質密度が多いそうで、これが、可塑性や精神的な柔軟性を生み出しているとのこと。認知的可塑性は学びや記憶、そして脳の機能性において大変重要な鍵である。つまり、多言語の知識を持つ生徒は脳機能も発達しており、学術において秀でているのは偶然ではないのだ。

また、別の研究では多言語使用と認知症やアルツハイマー病発症の遅延との関係性が発見された。ニューヨークにあるフランス大使館職員で教育官を務めるファブリス・ジョモンは情報サイト「フレンチリー」に対し、「マルチリンガルかどうかは、最終的に人々の健康に関わってくるのです。我々はその点に充分注目、投資していくべき」と述べている。

マルチリンガルの生徒の多くは貧しい有色人種

多言語教育における調査はまだ黎明期ではあるものの、見通しは明るい。脳に関する調査結果はELと英語のネイティブ双方にとって有用な情報となるのだ。

しかし、課題も無視できない。「忘れてはならないのは、モノリンガルの生徒よりも成績の低いマルチリンガルの生徒の多くは有色人種であり、経済的に恵まれていないなど、不利な状況とリソース不足に直面している」とトムソンは指摘する。「それを踏まえても成長が見えることは、有効な政策の結果とマルチリンガルの生徒たちがより高いレベルを目指す能力があるということだ」

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

MUFG、印ノンバンクに40億ドル以上出資へ=関係

ワールド

訪日客11月は10.4%増、紅葉で好調続く 中国は

ビジネス

日経平均は反発、米雇用統計通過で安心感 AI関連も

ワールド

ブラジル中銀、金利据え置き戦略は適切と現時点で結論
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中