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音楽家やバイリンガルは脳を効率よく使うことが明らかに

2018年5月21日(月)19時50分
松丸さとみ

楽器や言語の習得は脳機能の成形に影響 metamorworks-iStock

情報を一時的に覚えておく能力を測定

音楽や多言語を操る人の脳は、そうでない人の脳と比べ効率よく動くことが、このほど調査で明らかになった。

カナダのベイクレスト・ロットマン研究所が実験を行い、結果を学術誌「アナルズ・オブ・ザ・ニューヨーク・アカデミー・オブ・サイエンシズ」に発表した。

同研究所の発表内容によると、音楽家やバイリンガルの人はこれまで、例えば電話番号を覚える、指示の手順を覚える、暗算をするなどといった、情報を一時的に覚えておくワーキングメモリを使ったタスクが得意とされてきた。しかし脳のネットワークがどう働いてこの動きを支えているのかについての詳細は、まだ特定されていない。

今回の調査では、音楽家やバイリンガルの人たちを対象に、この類では初となる脳の画像検査(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、脳のどの部分が働いているかを調べた。

音楽家は特に好成績

調査の対象となったのは、音楽家だが1つの言語のみ話せる人(以下、音楽家)、音楽家ではないがバイリンガルの人(バイリンガル)、音楽家でもなくバイリンガルでもない人(対照群)、という3つのカテゴリーのどれかに当てはまる、19〜35歳の41人。それぞれの人たちに2種類のタスクを行ってもらった。

1つ目のタスクは、楽器の音、環境音、人間の出す音のいずれかを2回聞いてもらい、1回目の音は2回目の音と同じタイプのものか否かを判断してもらった。2つ目のタスクは音の来る方向についてで、1つ目のタスクと同じく2回聞いてもらい、1回目の音と2回目の音は同じ方向から来るか否かを判断してもらった。

1つ目のタスク(音楽の種類)について、音楽家は、音楽家でない人たちよりも反応が速く、脳の活動が少なかった。一方でバイリンガルは、対照群と同じレベルだった。

2つ目のタスク(音楽がなる方向)では、音楽家とバイリンガルは、そうでない人たちと比べ脳の活動が少なかった。

音楽家は1と2のどちらのタスクにおいても脳の活動が少なかった結果となったが、この結果は、音楽家が脳神経をより効率よく使用できることを示唆していると研究チームはみている。

楽器や言語の習得は脳機能の成形に影響

筆頭著者でありトロント大学で心理学を教えるクロード・アラン准教授は1つ目のタスクの結果について、バイリンガルの人たちが音楽の種類を処理するのに時間がかかった理由として、入ってきた情報を脳内のライブラリーを使って処理する際に、1つの言語だけでなく2つの言語を使う必要があったからではないか、と説明している。

実際に調査では、バイリンガルの人たちは音楽家や対照群と比べ、言語を司る脳の部分が活発に動いており、この理論を裏付けているという。

調査結果からは、楽器や言語の習得が、個人が脳のどのネットワークを使用するか、そして脳がどう機能するかを形作る際に影響することが示唆された。

また、同じタスクを行う場合でも、音楽家とバイリンガルの人は少ない労力でタスクを遂行できたことが示されており、認知力の低下や認知症の発症を遅らせてくれる可能性があるとアラン准教授は説明している。

アラン准教授は、今後は、大人が音楽や芸術を習得しようと訓練を行う場合、脳の機能にどのように影響するかを調べたい、としている。

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