最新記事

アメリカ社会

アメリカを揺るがす同性愛者vs「宗教の自由」

アップルのティム・クックCEOも危機感を持った「宗教の自由回復法」とは何か

2015年4月9日(木)14時50分
テイラー・ウォフォード

性的少数派 シンボルの虹色の旗を持って新法に抗議する市民 Nathan Chute-REUTERS

「宗教の自由」が性的少数派の自由を妨げる──。先月末にインディアナ州で成立した「宗教の自由回復法」をめぐり、同性愛者らが大規模なデモを展開。多くの著名人も反対を表明するなど、全米で議論が巻き起こっている。

 宗教の自由回復法は宗教活動に対する政府の抑圧を制限するもので、 既に19州と連邦法に同様の法律がある。だが近年は、自由なファッションを主張する受刑者や、ヤギを「いけにえ」にするため住宅地で殺す権利を求めた神父が「宗教の自由」を根拠に裁判で勝訴するなど、「乱用」が問題にもなっていた。

 今回の新法に「同性愛」の文言はないが、例えば菓子店が同性婚カップルからのウエディングケーキの注文を「宗教上の理由」で断っても、法的に許されることになりかねない。マイク・ペンス州知事は同法に差別の意図はないとしたが、ゲイを公言しているアップルのティム・クックCEOが批判するなど、各地に抗議の輪が広がった。

 これまで「宗教の自由」をめぐっては、共和・民主両党の党派対立の色合いが強かった。最近も、避妊具の医療保険適用に対して医療保険改革法(オバマケア)の反対派を中心に抗議の声が上がり、連邦最高裁が連邦の「宗教の自由法」に基づいて適用除外を認めた。

 インディアナ州の同法に対しても、次期大統領選に出馬を決めている共和党のテッド・クルーズ上院議員が支持を表明したが、共和党寄りの財界からは反対論が噴出。法成立から4日目には同州の共和党幹部らが修正の意向を示し、今月2日には性的指向による差別禁止を含む修正法を可決した。修正の動きは他州にも広がっている。

 建国以来の自由の概念が揺らぐなかで党派間の懸け橋になれるのは、虹をシンボルとする性的少数派の人々くらいなのか。

[2015年4月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦案、イスラエルにこれ以上譲歩せずとハマス 

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIの基盤モ

ワールド

米がイスラエルに供給した爆弾、ガザ市民殺害に使われ

ビジネス

英アーム、通期売上高見通しが予想下回る 株価急落
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中