最新記事

アメリカ社会

ピンクスライムは食べ物か廃棄物か

犬でさえ食べないようなくず肉が化学処理で生まれ変わり、全米のスーパーや給食に並んでいる

2012年3月14日(水)17時40分
ステイシー・リースカ

本当に安全? アンモニア処理されたくず肉を子供に食べさせたいか(写真は普通のひき肉)  istockphoto

 ハンバーガーにかぶりつく前には、その肉がどこで作られたものかを考えた方がいい。農場? 今どきありえない。工場? それならまだいい。研究所?そう、その可能性が一番高い。

「ピンクスライム肉」と呼ばれるその材料がもうすぐ、全米各地のランチプレートに出回ることになる。といっても、金儲けを優先するファストフードチェーンの話ではない。この物体を3000トン以上もまとめ買いしているのは米農務省だ。

 米ABCニュースはピンクスライムについて、「かつてはドッグフードや調理用油にしか使われなかった切り落とし肉が、殺菌のためアンモニア処理され、水増し用の材料として多くのひき肉に混ぜられている」と報じた。牛肉の「スライム」とは、筋肉と脂肪を分けるために低温で煮込まれ、遠心分離機にかけられたくず肉のことだ。

 それなら、その肉を注文しなければいいのではないか。あなたの子供に教えてあげてほしい。何せこの代物は、全米の学校給食に供されることになるのだから。

スーパーに並ぶ牛肉の70%に含まれる

 犬でさえ食べないようなピンク色のドロドロしたクズ肉を口にするなんて、考えただけでも気持ち悪い。しかし、ニュースサイト「食品安全ニュース」のインタビューに答えたジェームズ・マーズデン博士は、おいしくはなさそうだが食べても安全だと語っている。「加工食品の材料には、それだけ見るとまずそうだと誤って認識されてしまうものがいくらでもある」と、マーズデンは言う。

「一般の人がチーズやワイン造り、高級食肉製品の加工工程を見たら、食欲をそそらない部分もある。ビーフ・プロダクツ社(BPI)の製品に対する批判は食の安全ではなく、品質についての見方が背景にあると思う」

 ピンクスライムを製造するBPIも、この製品を擁護する。「アメリカの学校給食で出される牛肉製品にこの加工肉を加えることで、3200万人の子供たちのために3つの目標を達成できる」と、BPIの広報担当リッチ・ヨッカムは米フォックスニュースに語った。「第一に、学校給食の栄養価を高めること。第二に、食品の安全性を向上させること。そして第三に、全米の子供たちに毎日、学校給食を提供できるよう予算を抑えることだ」

 だが米農務省の科学者であるカール・クラスターとジェラルド・ザーンスタインは異議を唱え、農務省のピンクスライム購入を公然と批判。この添加物は「経済的な詐欺」であり、自然な肉と栄養学的に同等ではないとしている。

 牛肉の中にピンクスライムが含まれていても、農務省にはそれを表示する義務はない。クラスターとザーンスタインによれば、スーパーに並ぶ牛肉の70%がこれを含んでいるという。

 食料不足と経済格差の進行で、あるぞっとするような加工肉が人々の口に入る――映画『ソイレント・グリーン』のような未来もなくはないか、と思ってしまう。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中首脳会談、30日に韓国で トランプ氏「皆が満足

ビジネス

NY外為市場=ドル対円で上昇、翌日の米CPIに注目

ワールド

ロシア軍機2機がリトアニア領空侵犯、NATO戦闘機

ワールド

ガザへの支援「必要量大きく下回る」、60万人超が食
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 9
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中