最新記事

アメリカ社会

不法移民を救う「夢」はまた消えた

2011年1月6日(木)15時20分
井口景子(本誌記者)

 国で生まれ、幼い頃に不法入国した親に連れられてアメリカに来たため、どれほど優秀でもまともな就職さえできず、常に強制送還リスクに怯えている──。そんな「優良不法移民」を救済するオバマ政権肝煎りの移民制度改革案が先週、土壇場で否決された。

「ドリーム法」と呼ばれるこの法案が成立すれば、16歳以前に入国した不法移民で犯罪歴がなく、2年以上大学で学ぶか軍に入隊するといった条件を満たした者は永住権を申請できるようになるはずだった。

 01年の法案提出以来、何度も棚上げにされてきたが、ここにきて流れが一気に加速し12月8日に下院を通過。しかし翌日に予定されていた上院の採決は、共和党と一部民主党議員の強い反対で先送りになっていた。

 民主党が法制化を急いだ背景には、2年後の再選に向けヒスパニック系有権者の支持をつなぎ留めたいオバマ大統領の意向もあった。1月に始まる新たな議会では、中間選挙で勝利した共和党が下院の過半数を占めるため、年内が法案成立の最後のチャンスだった。

 ドリーム法が成立すれば、全米で80万人ともいわれる優秀な若い不法移民に社会参加の道が開かれるはずだった。米軍の新兵採用活動への強力な後押しになるとの期待もあった。

優良不法移民がカミングアウト

 だが反対派に言わせれば、不法移民に「恩赦」を与える行為はさらに多くの不法移民を呼び寄せる結果を招きかねない。大学か軍隊かという事実上の二者択一を突き付けることで、貧困層の若者に軍への入隊を強いることにもなる。

 さらに、兵役を全うしても永住権を認められないケースが多そうなことも問題とされた。共和党の反対を抑え込むため提出された修正法案で、永住権取得の要件が厳しくなったためだ。

 それでも法案成立を求める草の根運動は盛り上がった。テキサス大学など各地の大学で学生がハンガーストライキに突入。不法滞在者の若者の「カミングアウト」も相次いだ。

 年内に必ず採択する、と民主党のハリー・リード上院院内総務は強気だった。だが核軍縮条約「新START」の批准など、年内に成立させたい重要法案はめじろ押し。国民の55%が法案に賛成しているとはいえ減税に比べると関心は低く、共和党への圧力にはならない。米軍の同性愛者受け入れ法は上院を通過したが、ドリーム法は結局否決された。

 不法移民の長年の悲願は、今回も「夢」に終わってしまった。

[2010年12月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドの対米工業品関税ゼロへ、農産物は一部保護維持

ビジネス

5月のG7財務相会議、為替対応が議題に 中国念頭に

ビジネス

米ウォルマート、時価総額が初の1兆ドル突破

ワールド

ディズニー新CEOにダマロ氏、テーマパークトップ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 3
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 4
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 8
    ICE射殺事件で見えたトランプ政権の「ほころび」――ア…
  • 9
    少子高齢化は国防の危機──社会保障を切り捨てるロシ…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 8
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 9
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 10
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中