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無人機ミサイル攻撃、オバマのジレンマ

パキスタンに潜伏するテロリストを無人機で殺害する秘密作戦が成功し、CIAは作戦拡大を求めているが

2009年12月15日(火)18時33分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

新兵器 危ない任務をこなしてくれて便利な反面、懸念も大きい(写真はイスラエル製の無人機) Reuters

 CIA(米中央情報局)は、遠隔操作の無人機でミサイル攻撃を行う秘密掃討作戦によって、この2年間で10人以上のアルカイダ幹部を殺害してきた。その中には、アルカイダの大量破壊兵器の第一人者として知られていたアブハバブ・アルマスリや、パキスタンのイスラム原理主義勢力タリバンの指導者で、ベナジル・ブット元首相の暗殺の首謀者とされるバイトゥラ・メフスードも含まれる。
 
 政府の報道官らはこの作戦の存在すら認めようとしない。しかし安全保障に携わるある政府職員によると、無人機による攻撃が大きな成功を収めているため、テロ対策担当者らは作戦を拡大したがっている。無人機はテロリストを殺害するだけでなく、彼らを逃げ回らせて新たなテロを計画させないためにも有効だという。担当者らは、パキスタンのより人口が密集した地域でもテロリストを攻撃する権限を求めている。

 しかし無人機攻撃の拡大に抵抗する人物が1人いる。バラク・オバマ大統領だ。無人機の攻撃対象を広げることはリスクが高くて愚かな選択肢だ──そう主張する政治顧問や外交顧問にオバマは同調していると、5人の政府関係者は言う。

 情報機関の報告によれば、タリバンの最高幹部ムハマド・オマルらはクエッタのような都市部にも潜伏することがある。だがオバマは、こうした地域にミサイルを撃ち込めば一般市民に犠牲者が出る危険性が大幅に高まることを懸念しているのだ。

パキスタンの尻をたたく効果も

 無人機攻撃はこれまでパキスタン辺境の国境地帯で行われてきたため、同国の政治家や軍上層部は概ね黙認しているが、都市部で使われだしたら彼らは反発するだろう。それも懸念材料になっている。アフガニスタンとの国境地帯で武装勢力を掃討するパキスタン軍の作戦については、オバマ政権も心強く思っており、パキスタンとの協力関係は壊したくない。

 無人機作戦に関する政権内部の議論は1年近く続いている。米情報機関の元高官によると、オバマは大統領に就任してから数日後に、作戦の対象を国境付近の比較的限られた地域から、パキスタンのバルチスタンや南ワジリスタンといった地域にまで拡大するかどうかを側近と議論し始めたという。

 オバマは無人機攻撃の拡大という選択肢を捨てたわけではない。政府高官の1人は、オバマ政権は引き続き議論を続け、将来的な作戦拡大に向けての計画も立てるはずだと語る。作戦の拡大は、少なくともパキスタンにテロリスト掃討作戦を継続させるための圧力になるという。ホワイトハウスの報道官は本誌に対してコメントしていない。

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