最新記事
海外ノンフィクションの世界

同僚が失敗するのが見られるなら、自分のボーナスが減ってもいいと考える人

2023年4月4日(火)12時00分
プレシ南日子 ※編集・企画:トランネット
職場

maroke-iStock.

<悪意は社会を動かす。そして悪意は進化している。悪意の本質、そして正の側面とは何か? 心理学者が目からウロコの議論を展開する>

胸に手を当てて考えてみてほしい。次の質問のうち、皆さんはいくつ当てはまるだろう?

・同僚が失敗するのが見られるなら、自分のボーナスが減ってもかまわない。

・選挙で嫌いな候補者を落選させるためなら、たとえ対立候補のほうが能力が低く、当選したら社会に不利益をもたらすと思われても対立候補に投票する。

・会計のとき、わざともたもたして、後ろに並んでいる人を待たせる。

いずれも自分に不利益が及ぶにもかかわらず他者に害を与えようとする、悪意のある行動だ。

『悪意の科学――意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』(筆者訳、インターシフト)によると、この種の質問に「当てはまる」と回答した人は5~10%にのぼる。この数字は多いと感じるだろうか、少ないと感じるだろうか。

こうした人々が社会の趨勢を左右しかねないとしたらどうだろう? 実際、世論調査によると2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプに投票した人のうち53%がヒラリー・クリントンを勝たせたくないという理由でトランプに投票しており、なかにはトランプが大統領になったら心配だと答えた人までいたという。

ちょっとした嫌がらせから、ホロコーストに至るまで、悪意はさまざまな形で社会を動かしている。悪意の負の側面なら容易に思いつくはずだ。

では、正の側面はどうか。そもそも、嫌がらせをすれば相手にも自分にも不利益が及ぶにもかかわらず、人間に悪意を抱かせる遺伝子が進化の過程で淘汰されなかったのはなぜなのか?

心理学者である著者のサイモン・マッカーシー=ジョーンズは、心理学はもとより、脳科学や遺伝学、人類学、社会学、文学、映画などの幅広い知識を駆使し、ギリシア神話から自爆テロ、アメリカ大統領選挙やイギリスのEU離脱、ハチやヒアリ、現代の狩猟採集民族からヒトラー、ウォーレン・バフェット、禅僧にいたるまで、さまざまな例を客観的かつ多角的に分析しながら、目からウロコの議論を展開していく。

そして、「悪意は問題点の一部であると同時に解決策の一部でもある」と説き、悪意をコントロールして善を促す方法を提案している。

食と健康
消費者も販売員も健康に...「安全で美味しい」冷凍食品を届け続けて半世紀、その歩みと「オンリーワンの強み」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

首相退陣は大変無念、引き続き政策課題への対応に取り

ビジネス

中国車載電池大手CATL、来年初頭までにハンガリー

ビジネス

経常収支、7月は2兆6843億円の黒字も円高で縮小

ビジネス

蘭ASML、仏ミストラルAIの筆頭株主に 最新資金
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給与は「最低賃金の3分の1」以下、未払いも
  • 3
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接近する「超巨大生物」の姿に恐怖と驚きの声「手を仕舞って!」
  • 4
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 5
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 6
    コスプレを生んだ日本と海外の文化相互作用
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 9
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 10
    「日本語のクチコミは信じるな」...豪ワーホリ「悪徳…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中