最新記事

海外ノンフィクションの世界

ここまで分かった「学習」の科学 繰り返し読む、蛍光ペンでマーク...意味ある?

2018年10月23日(火)17時00分
月谷真紀 ※編集・企画:トランネット

AndreaObzerova-iStock.

<かつては知識がサバイバルツールだったが、時代は変わった。大切なのは知識そのものではなく、本質的な学び方。知っておきたい、知識を習得する6つのステップ>

氷河から発見された5000年前の男「エッツィ」は弓矢作りや金属精錬技術など、驚くほど高度な知識を身に着けていた。古代からつい数十年前まで、人間にとってのサバイバルツールは知識だったといえる。

だがインターネットが普及し、情報が検索ですぐ手に入るようになった現代、知識の価値は大きく変わった。現代人のサバイバルツールは知識そのものから、知識を運用する力、言い換えれば思考のスキルになった。

学習能力は生まれもった知性で決まる、というのが長らく通説になっていたが、実は正しい学び方によって学習の効果は格段に上がる。学習とは単に知識を記憶することではなく、知識に対してもっと能動的なアプローチをする知的活動だと、『Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』(筆者訳、英治出版)の著者アーリック・ボーザーはいう。

本書のテーマは、まさにこの学習である。この考え方を発展させた学習学という学問分野があり、著者は学習学の研究者らへのインタビューを重ねた結果、学習のプロセスを6つのステップに分解して、知識を習得するための体系的なアプローチを提案している。

6つのステップとは何か。新しい情報を学ぼうとするとき、自分にとってそれがどんな意味を持つのかを意識すること、情報の価値をみずから見つけることが、学習のモチベーションを大きく上げる。さらに、自分で意味を創造してみる、例えば一文字抜けた単語のスペルに文字を足して完成させるという単純な作業をするだけでも、学習が記憶に定着しやすくなる。これが学習プロセスの第一ステップ、「価値を見いだす」である。

その後は順に「目標を決める」、「能力を伸ばす」、「発展させる」、「関係づける」、「再考する」へと学習プロセスはステップを踏んでいく。本書では1章ごとに詳しく、それらのステップが説き明かされる。

勉強法のウソ・ホントに目からウロコの体験

蛍光ペンで覚えたい箇所をマーキングすることに効果はあるか? 繰り返し読むことには? マンツーマン学習は? 情報を自分の言葉で繰り返すことには?

著者はこれまで慣習的に行われてきた学習法の実際の効果を検証し、研究の裏づけを示しながらその理由を解説する。読者もきっと、自分がやってきたはずの勉強法のウソ・ホントに目からウロコの体験をするだろう。

ちなみに、それぞれ種明かしをすると、蛍光ペンでマーキングをすることも、繰り返し読むことも学習効果はないと研究によって分かっている。知識を構築するためには能動的に頭を働かせる活動が最も効果が高い。しかし蛍光ペンも再読も、頭の働きを促すには至らないらしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中