最新記事

サイエンス

英王室メンバーが庶民より30年も長生きする理由

LONG LIVE THE MONARCHY!

2021年5月19日(水)11時30分
S・ジェイ・オルシャンスキー(イリノイ大学シカゴ校教授)
エディンバラ公フィリップ殿下とエリザベス女王

故フィリップ殿下と今も元気な女王(2015年撮影) BORIS ROESSLER-POOL-REUTERS

<一般のイギリス人より、なんと平均して30年も長生き。各種の研究で分かった、この差が生まれる要因>

イギリスでは100歳の誕生日を迎えた人に女王からお祝いのメッセージが届くことになっている。100歳まで長生きできるのはそれほど数少ない幸運な人、ということだ。

今年4月9日に亡くなったエディンバラ公フィリップ殿下は99歳と10カ月だった。その前に伝えられた英王室のメンバーの訃報はエリザベス女王の母・エリザベス皇太后の死で、2002年に101歳で亡くなった。

このように英王室のメンバーには長寿者が多い。私の分析では、一般のイギリス人よりも平均して30年も長生きする。

調査したのは過去6代にわたるイギリスの国王と女王、およびその伴侶と子供たち、合計27人の王室メンバーだ。老化と長寿を研究する自分にとっては大変興味深い結果が得られた。

筆者は以前にアメリカの大統領とその家族の寿命も調べたが、彼らもまた一般のアメリカ人より数十年長生きする傾向が認められた。

ビクトリア女王以降のイギリスの君主の平均寿命は75歳。最近ではさらに寿命が延び、エリザベス女王は95歳の今も元気だ。

君主の伴侶はもっと長生きで平均寿命は83.5歳。1861年に42歳で亡くなったビクトリア女王の夫アルバート(死因は腸チフスとみられる)を除けば、この数字はなんと91.7歳となる。

一方、6代の君主が生まれた年の一般のイギリス人の平均余命を足して6で割るとわずか46年。例えばビクトリア女王が生まれた1819年のイギリス人女性の平均余命は41年だが、ビクトリア女王は81歳まで生きた。

エリザベス女王が生まれた1926年のイギリス人女性の平均余命は62年。女王はそれより33年も長生きしていることになる。

何がこの差を生むのか。遺伝子、社会的地位、生活習慣。これら全ての要因が関与している。

長生きするには、まず宝くじに当たるような幸運が必要だ。85歳以上の長寿には親から長寿の遺伝子を受け継いでいなければならない。

ただし、それだけでは不十分だ。次なる関門は、寿命を縮めるような行動を控えること。そういう行動はたくさんある。長生きするより早死にするほうがはるかに簡単なのだ。

よく知られているものを挙げれば、喫煙、過食、運動不足など。

加えて、貧困家庭に生まれれば早死にする確率が高くなる。その点、ロイヤルファミリーは非常に有利だ。

その証拠に過去6代のイギリスの君主の子供たちの平均寿命(事故死や病死を除く)は69.7歳。同時代のイギリスの一般家庭に生まれた人たちより約23年長生きしている。

イングランドのマンチェスターで2017年に実施された調査では、住んでいる場所によって平均余命に大幅な差があった。教育レベルと経済的地位が高い地域では平均余命も高く、教育レベルと所得が低い貧困地域では低かった。

アメリカでも郡、国勢統計区、郵便番号別の平均余命の調査で同様の結果が出ている。通り1本隔てて向かい合わせで暮らしていても、貧困地区か裕福な地区かで住民の寿命に大幅な差があることは珍しくない。

長生きできるかどうかはまず遺伝子で決まるが、加えて教育や所得、医療や清潔な水の確保、食習慣、屋内の生活・労働環境、総じて社会経済的な条件に大きく左右されるのだ。

フィリップ殿下が長寿を保てたのは医学の進歩のたまものでもあり、大いに喜ばしいことだ。しかし一方には、医療の恩恵にあずかれない貧しい人々が大勢いることもまた事実。

誰もが長寿を享受できるよう、人類が挑むべき課題はまだまだ多い。

The Conversation

S. Jay Olshansky, Professor of Epidemiology and Biostatistics, University of Illinois at Chicago

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

(※遺伝子や生活習慣、社会的地位が長寿に関与しているとはいえ、現在は老化を止める研究が進んでいる。本誌5月25日号「若返りの最新科学」特集では、その最前線をレポートしています)

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ

ビジネス

日経平均は反発、対日関税巡り最悪シナリオ回避で安心
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中